倶樂部余話【九十四】私の筆についての喜怒二題(一九九七年四月七日)


◆喜の巻。初めて原稿料をもらえる執筆依頼がありました。近畿日本ツーリスト「月刊ツーリスト」五月号「英国特集」に掲載の予定です。ロンドンでの旅の思い出を、という依頼で、気合いを入れて数週間悩んで仕上げた第一稿が、堅すぎです、という編集者の一言で敢えなくボツ、少し面白おかしく第二稿を慌てて一晩で仕上げ送稿しました。

毎月の当通信はこちらがコストを払いしかも顔の見える数百名だけに伝わればいい、極めて独断的私文であるのに対し、今回はカネをもらった上で不特定多数にさらけ出す文章なわけで、この違いは予想以上のプレッシャーでした。
 
 筆で飯を食っている人はさぞや図太い神経の持ち主なのだろう、と感心した次第です。

◆怒の巻。私のライフワークのひとつが、本物のアランセーターの日本での啓蒙普及。そのために四年前、私が心血注いで綴った小冊子、その私の文章が、こともあろうにニセモノの大量販売のために無断盗用されました。相手は大阪の大手通販会社S会。一昨年来私はこの会社から、たとえ少量でも世界一の本物だけを会員に紹介したい、という強い意向を受けて、いろいろと協力をしてきたのですが、昨年末、企画自体がボツになったと報告を受けました。ところがある筋から私の元に届いたカタログは「本物中の本物」と銘打った豪華なもので、明らかに読者がニセ物を本物と錯誤するように誘導していて、私の文章はあたかもそのお墨付きのように使われているではありませんか。これはもう完全に読者をナメた悪質な確信犯です。この裏切りは決して許すことができません。
 
 どのように抗議するか、現在アイルランド政府商務庁と相談中ですが、なんとしても本物と信じてニセ物を掴まされる数百人を救済しなければいけないと思っています。

◆「ペンは剣よりも強し」か。ホント両刃の剣だもンな。