倶樂部余話【一〇八】アイリッシュ・ドレスデンを売るということ(一九九八年六月一日)


紳士服店で婦人服を併売することに違和感を覚えることは少ないでしょう。しかし、その逆はかなり難しいことです。さらに、ブラシ屋で紅茶は売れませんし、傘屋に石鹸は置いてません。ギネスビールの飲める下着屋があるでしょうか。このように当店は様々なものを飲み込んできました。

しかしその中でも今回の企画はかなり異色です。実用品でない美術宝飾品を扱うのは初めてですし、概ね女性しか関心を示さないという点でも異例です。

私自身、この精緻なる芸術品の魅力を完全に把握しているという自信はありませんが、私も一緒になってここ数年日本の各地で開催する「アイルランド・フェア」で、アイルランドを代表する工芸品として、アランセーターと並び称されるアイリッシュ・ドレスデンのレース磁器人形を、いつかは当店の皆様にご紹介したいと、ずっと願っていた企画なのです。

「ひとつも売れないかもしれませんよ」との念押しにもかかわらず、アイリッシュ・ドレスデン・ジャパン社の宮城央江社長は快く開催を引き受けてくれました。だから見に来ていただけるだけで結構です。一万円から二〇〇万円まで多種を一堂に展示します。世の中にこういう美術品があるのだと体感して下さい。