倶樂部余話【一一八】人のスピード(一九九九年四月六日)


 

昨年冬、ティーンズ市場で白のダッフルコートがバカ当たりした時のこと、あるところではわずか一週間でこの売れ筋をドカンと作って売りまくったそうです。恐るべきスピードです。その代わりこういった店では売れない物はいくらいい品でもたった一カ月で処分に出されます。つまり、この店の商品の寿命はわずか一ヶ月しかなく、客もその間に買わないといけないわけです。何か強迫観念さえ感じますね。

ところが人のスピードというのはそんなに早くない。欲しいなと感じてから買おうと決めるまで、もちろん衝動買いというものもあるでしょうが、概ね一~二ヶ月掛かることはざらですし、一年以上思案するお客様だっているはずです。

つまり、モノ(文明と言い換えてもいいかもしれません)のスピードがものすごく早くなってしまい、ついに人間のスピードが追いつけなくなってきた、ということでしょうか。早く・効率的に、という便宜に、そろそろ人はノーを言い出しているように感じます。

当店も、ファッションを扱う以上、流れに乗ることは当然に大切です。しかし、停滞せず、はたまた早すぎず、「人のスピード」を守っていきたいものだ、と強く感じるこのごろなのです。