倶樂部余話【一三七】クラブだけどパブ(二〇〇〇年九月六日)


英国の酒場といえばパブ。これはパブリックの略ですが、公共ということではなく、階級や氏素性に関係なく誰でも入れる、という意味であり、対する言葉はメンバー制であるクラブです。

さて、当店はクラブの名を冠しています。欧州の小さな専門店が持つ(いい意味での)一種の閉鎖性に憧れてこう名付けました。しかし、曲がりなりにも13年間やってきたことで、この頃当店も少しずつパブリックな存在になってきたかな、と実感します。紺屋町の英国旗の出た煉瓦造りの洋服屋と言って「知ってる」という人が格段に増えてきたようです。ありがたいと思うと同時に、課せられた責任も次第に重くなってくるのだと肝に銘じています。

だからといって今までのやり方を変えるつもりはありませんが、商売としてはパブリックな要素にも答えねばなりません。頂上の標高を下げないでしかも裾野を広げる、という難しい作戦となります。また、お客様の消費に占める衣服の比率が今より上がることは当面ないでしょうから、これにも知恵を絞らねば、面白い店にはなりません。

当店の14度目の秋を、こんな思いで迎えました。今年も仕込みは万全、どうぞ存分にお楽しみ下さいませ。