倶樂部余話【一三八】省くという流れ(二〇〇〇年一〇月五日)


服飾の歴史とは、イコール簡略化の歴史でもあります。現在では最も堅苦しいと思われているスーツ・スタイルも、フロックコートなるガチガチの貴族の服から度重なる簡略化の過程を経て、現在に至っている、進化した姿なのです。

オフタイムの着方にしても、シャツ⇒ベストやセーター⇒ジャケット⇒アウター(コート)⇒頭には帽子と、重ねていくのが言わば本来なのですが、今ではこんな正統的重ね着はむしろ少数派になりつつあり、ここでも簡略化の流れが進んでいます。

まず最初に省かれるのが、一番値の張るアウターでしょう。厳冬期にはどうしても必要ですが…。そしてジャケットがランクアップしてアウター化し、室内に入ったらジャケットを脱ぐ、というようになってきました。代わりにセーターがジャケット化して、ザクッと羽織る感覚のセーターが目につくようになってきてます。アランセーターのジャケットもそのひとつですね。

しかし、このところ急速に変化を見せているのは、何と言ってもシャツです。シャツはもともと下着であって、おおっぴらに人目に晒すものではなかったのですが、今では、分類上はシャツなのに、その着方は、セーター的、ジャケット的、アウター的な楽しいシャツがどんどんと増えてきてます。ひと頃は年配者たちから眉をひそめられた裾出しルックも、そのラクチンさからか、すっかり当たり前のものに定着しました。簡略化の歴史から見ればこれも当然のことと、そろそろ積極的に是認したいと思います。

ということで、すでにご来店の方はお分かりでしょうが、今年の秋は、従来よりもシャツをグンと増やして揃えました。新たな感動を味わっていただけることと期待してます。