倶樂部余話【一三九】ドレスコード(二〇〇〇年一一月一日)


HP開設に伴って、お客様からのEメールが毎日のように入ってきます。

その中で意外に多いのが、冠婚葬祭時の着こなしなど、いわゆる「ドレスコード」に関するご質問です。「○○のときには、××の格好で良いでしょうか?」といった内容で、一抹の不安を打ち消すために私の太鼓判をお求めの様子です。服が似合う似合わないは、「これでいいんだ」という自信を持って着ているかどうかの差ですから、これはとても大事なことだと思います。

ドレスコードを間違えて着ていても、何も反則金を取られるわけではない反面、また誰もその間違いを指摘してはくれません。ルールブック的なものはなく、その人の地位やファッション認知度、主催者の思惑、時と場所などによって、○にも×にもなるのがドレスコードで、英国の憲法のような積み重ねの所産、不文律といわれる所以です。

それではドレスコードどおりにきちんと着ていればそれで事足りるかというと、さにあらず、「崩し」もまた服装の楽しい妙であります。ただ、あくまでもドレスコードをきちんと踏まえた上で崩していくことが肝要で、例えると、ジャズのアドリブのようなものと言えます。

しかも、ファッションは変化の連続で、服飾思想は徐々に簡略になってきているので、かつては×だったものが現在では○、というドレスコードも多々あり、以前に本で読んであるからもう大丈夫、ということも言えません。

私は、男の服飾はドレスコードがあるからこそ面白いのだと思いますし、ドレスコードを良く理解している人は例外なくおしゃれな方だと感じます。本来は、男が社会へ出るための最低限の知識として学校で学んでおくべきことのひとつだと思いますが、残念ながら私自身も高校や大学でこんな講義を受けた経験はなく、結局、興味のある人しか知りえない特殊な知識になってしまっているのが、日本の現実です。

「それじゃどうすればいいんだ?」ということですが、皆様への答えは簡単です。私に尋ねて下さい。さすがに宮中晩餐会レベルとなると自信はありませんが、一応プロとして恥ずかしくない程度のお役には立てるはずです。その代わり、私たちが困った時にはあなたのプロとしての知恵をお借りすることがあるかもしれません。知らないことは知ってる人に聞く。まさに、蛇の道はヘビ、なのですから。