倶樂部余話【一七四】オリジナルスーツという意味(二〇〇三年六月二日)


多くの仕入れ商品を揃えている当店ですが、スーツに関しては当店オリジナルネームのパターンオーダーのみを取り扱っています。 国内外にいろんな優れたスーツブランドがあるのは分かっているのに、なぜ当店はそういったスーツを仕入れないのでしょうか。

また、私自身が縫うわけでも自社工房があるでもなく(協力工場は開業以来三回変えました)、生地も独自の生地ではなく、仕様や型紙(五回変更)にしても他人の引いたパターンを使っている、にもかかわらず、これを当店オリジナルだと呼ぶのはどうしてでしょうか。

スーツとは、実に奥深いモノで、重要なポイントはほんとにたくさんあります。型紙、サイズ取り、素材、縫製、仕様、ブランド、価格…、優先順位は人それぞれでしょう。 でも、私は、一番重要なのはフィッターではないかと思います。職業や着用頻度、予算などからふさわしい生地とスタイルを薦め、肩幅や胴の絞り具合、袖や裾の長さを決めることはもちろん、撫で肩や反身などの体型補正を施し、ボタンや裏地を選び……、そして演出力も多少は必要、と、フィッターの役割はかなりのウェイトを占めます。仮に同じ人が同じスーツを頼んだとしても、フィッターが違えば全く違ったモノになってしまうのが、スーツなのです。

どんなにいいスーツも正しくフィッティングがされていなければ価値はありません。私が責任を持ってフィッティングしました、という証、それが“Savile Row Club”のラベルなのだと考えているのです。