倶樂部余話【一七六】自腹で買う(二〇〇三年七月一七日)


展示会での仕入発注の際、お客様の名前が出てくるのは、私たちには珍しいことではありません。「Aさんの好みの色はこれ」「Bさんが好きそうだからこのサイズ」と、何時間もかけて全身全霊を傾け、わずかな数を出していきます。その我々の傍らを、大手の若いバイヤーが通り抜け、ろくに試着もせずに、わずかな時間で我々の数倍の数をあっさりと付けてさっさと帰っていきます。きっと彼(彼女)らはこう考えているに違いありません。(何億買っても払うのは会社。売るのも自分じゃない。売れ残っても御殿場(アウトレットの意)に回せば済むし。)

プレス(雑誌編集者)になるとさらに選択眼は甘くて、彼らは仕入れすらせずに、ただ目新しいモノを借りていくだけですから、値段や耐久性などにはとんと無頓着となるのは、もはや致し方ありません。

金額の大小を問わず、品選びに一番真剣に悩むのは「自腹を切る」ときです。そしてお客様のお買い物は常に自腹なのです。限られた自腹予算の中で最大価値のいいモノを真剣に探しているのが、お客様であり、私たちのような小さな個人商店なのです。

自腹で買う奴が一番偉い、と私は思います。そして、バイヤーは、常にお客様から、自腹という最も厳しい審判を受け続けている、ということを、肝に銘じて仕入れをしなければ、と思うのです。