倶樂部余話【一九一】コットンとカシミア(二〇〇四年一二月四日)


知っておいて下さい。世界の農薬の約25%が綿栽培のために使用されているということを。綿の三大産地は中米露(この三国で世界の生産量の六割近くを占める)ですが、そこでは、遺伝子組換に始まり、枯葉剤の散布による土壌汚染、漂白剤・蛍光増白剤・界面活性剤・合成のりなどの水質汚染、とまさにクスリ漬けです。コットンというと、ピュアでナチュラル、と思われがちですが、それに払われる犠牲は思いのほか大きいものがあるのです。

知っておいて下さい。モンゴルの高原(といってもその多くは中国領)ではカシミア山羊の飼育頭数がこの数年で急速に増えていて、草原が食べ尽くされしまい、その結果、砂漠化が進んでいるということを。偏西風に乗って日本へ吹く黄砂も増えるでしょうし、将来の異常気象の一因になることは必至でしょう。

しかし、だからといって、私は、綿もカシミアも「買ってはいけない」というほどの、ナチュラリストでもエコロジストでもありません。そもそも文明はピラミッドの太古から自然破壊を伴って進化してきたものですし、また、ファッションの歴史は、高貴なものに抱く庶民の憧れが原動力になってきたのですから。

ただ、お腹に消えていずれは土に帰るという連鎖がある食物と違って、衣類というのは残るものなのです。これがファストフードとファスト衣料の決定的な違いでしょう。地震の被災地に次々と送られてくる救援物資のうちで、分配が一番厄介なのも衣類だそうです。

なので、私はちょっとだけこう思うのです。地球にもっと長生きしてもらうためには、安価な服を使い捨てのように大量に浪費することよりも、いつまでも捨てられることなく長く使えるいい服をひとつずつ買い足していくことの方が、少しばかりは役に立つことなんじゃないのかと。