倶樂部余話【一九五】ローマ法王昇天に思う(二〇〇五年四月一〇日)


私の手元にある一枚の写真。先般昇天したローマ法王ヨハネ=パウロⅡ世が真っ白なアランセーターを手にしながら微笑んでいる姿があります。これは、このセーターを編んだ名ニッター、アラン諸島イニシマン島のモーリンさん宅に飾られていたものを私が複写したもので、1981年に法王がアイルランド・ゴルウェイに来訪した際に、地元の教会からセーターを献上されたときの一場面なのです。
Pope

 「アランセーターは、神が私に編ませて下さる、神様からの贈り物なんです。」と語るまでの熱心なカトリック信者である彼女にとって、献上セーターを編んだということは、この上ない名誉に違いありません。しかも彼女のもとには、その後法王自身からのお礼の手紙が届いたのです。「あなたの編んだセーターをスキーに着て行きました。素晴らしいセーターをありがとう」と。私は「その手紙を見たい」と頼みましたが、「それは誰にも見せたことがないの。」と丁重に断られました。きっと、誰彼に見せびらかすようなこともせず、彼女の何よりの宝物として、大切にしまっておきたいものだったのでしょう。

私は、一昨年、思うところがあり近隣のとある教会の枝となることを決めましたが、このモーリンさんの「神への思い」に深く感銘を受けたことがそのひとつの契機でありました。きっと、今頃彼女は誰にも見せなかった法王からの手紙を手にとって祈りを捧げていることと思います。

 私はと言えば、「あの献上セーターはこの先どこへ行ってしまうんだろう」と下衆(げす)な心配をしているのですが。