倶樂部余話【一九八】クール・ビズ(二〇〇五年七月一〇日)


さてもさても喧(かまびす)しい限りの「クール・ビズ」ですが、何もこれはこの夏突然振ってわいたものではなくて、実は日本メンズファッション協会なる業界団体が5年ほど前から着々と仕掛けてきた戦略に、環境省がクール・ビズという公募による命名でお墨付きを与えたものだと言えます。

私の辛口の批評を期待している方もいることかと思いますが、残念ながら(?)、基本的にはこれはいいことだと歓迎しています。何しろこれほどに男の服装に関心が集まることはそう滅多にないことなのですから、それだけでも確実に私たちの業界にとってはプラス効果でしょう。

話題にされれば興味も湧きます。あとは、とにかく「習うより慣れろ」で、次第に何とかサマになってくるものです。浮き彫りのように眼前に晒(さら)されるシャツ、パンツ、ベルト、靴、ソックス、それぞれの重要性も分かってくることでしょうし、家に寂しく置き去りにされてしまった上着やタイにしても、これらがどれほど格好の隠れ蓑の役割を果たしていたのか、ということをかえって再認識するに違いありません。

気掛かりなのは、この導入が官主導で、しかも目的が小電力、ということゆえに、十月になったとたんに、昨日までの上着やタイのないスタイルが何かの魔法であったかのように、あっけなく元通りに戻ってしまうのではないかということ。せっかく服装の多様化という門を開けたのですから、秋も冬もそのままノータイでも構わないよ、という土壌が定着してくれると、男の装いはますます楽しくなるんだがなぁ、と私は密かに願っているのです。