【倶樂部余話】 No.201 旅日記/角館と吹屋 (2005.10.7)


 旅が嫌い、という人は少ないと思います。私も結構旅好きの方に属すると思いますが、この一年は某組合の役職に就かされたおかげで、弘前と岡山にのんびりと出掛ける機会に恵まれ、その往復ついでにいくつかのミニ観光が実現できました。その中で特に印象深かった土地が、角館(秋田県)と吹屋(岡山県)でした。

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角館の武家屋敷通り。道路の高さや側溝まで江戸時代当時に復元されている。

 角館の武家屋敷地区の復元と保存は、官民一体で徹底されていて、今にもちょんまげ姿の侍が飛び出してきそうなほど見事でした。またそこに根付く文化もとても分かりやすく公開されていて、万人にお薦めできる「良い観光地」だと感じました。 

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角館にはなぜか床屋さんが多い。

(やたらに床屋さんとパーマ屋さんが多いのに驚き、いろんな人に聞き回りましたが、結局その理由は分からずじまいでした。どなたかご存じないでしょうか。)

 吹屋は、岡山駅から車で二時間の山の中にぽつんと残った江戸時代に栄えた鉱山町で、ベンガラ(鉱物から取れる赤い染料)で財を築いた豪商の館(映画「八つ墓村」ロケに使われたお屋敷)や馬が往来していた当時がそのままに残る街並みなど、まるで三百年前にタイムスリップしたミステリーゾーンのようなところでした。
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これが吹屋のメインストリート。石州瓦とベンガラ色の壁が美しい。
馬のひずめの音が聞こえてきそうだ。

(この一帯では、国道よりも県道の方が広く、さらに一番立派な道は農道(カーナビにも載ってない!)なのです。道路行政の矛盾の縮図です。)

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吹屋小学校。明治42年(1909年)建築。現役の小学校としては日本最古の木造校舎らしい。

   どちらも文化庁の「重要伝統的建築物群保存地区」に指定されているエリアです。私はこういう地区の指定があることを最近になって知ったのですが、古い街並みを残すために一九七六年にできた制度で、北は函館から南は竹富島(沖縄県)まで、現在全国に六十一地区あるそうです。
 雄大な大自然を眺めているよりもこぢんまりとした古い街並みを歩くのが好きな私にはとても興味のある地名ばかりが並んでいますが、交通の便の悪いところが多いため、私が訪れたことのあるところはその三分の一ぐらいしかありません。意外なことに近場の山梨県や長野県にもいくつも未踏地があり、もっと早く知っていれば、今頃は全部を踏破できていたかもしれないと、少年時代に「新日本紀行」や「遠くへ行きたい」をよく視ていた私は、少し悔しく思っています。
 
旅の楽しみは人それぞれでしょうが、敢えて私が挙げるならふたつ。まず下調べ。何しろこれが大好き。交通・味・宿…、想像だけでも旅気分は存分に昂揚します。インターネットの出現はこの喜びを数十倍に膨らませてくれました。そして、もうひとつ。不思議なもので、土地の人とたくさん話をしたところは好印象が残っているのに、運悪くろくに会話のなかったところは記憶が薄れてくるのです。そう、土地の人との会話の印象は、いい旅だったかどうかの判断に大きく影響してしまうものなのです。私が、日本語と英語の通じないところにはあまり行きたいと思わないのは、そのせいかもしれませんね。
 十一月の大道芸以外には観光資源の乏しい静岡市ですが、それでも県外からビジネスや観光でこの街を訪れる方々が当店にも少なからずお見えになります。私たちがお相手したそんな方々に「静岡っていい街だったな」という印象を残せていればいいのですが。(弥)