【倶樂部余話】 No.202 体温・三題 (2005.11.11)


 静岡市の一大イベント「大道芸」も終わり、十一月も半ば、ようやく寒くなってきました。今回は「体温」について三題。

●まずは、我が業界が目下躍起の「ウォームビズ」。こいつはちょっといただけないです。早い話が重ね着のススメでしょ。言われなくたって、みんなお洒落をしたくて寒くなるのを待ち焦がれているのですから、正直、何だか押しつけがましくて、余計なお世話、の感があります。確かにクールビズは、単なる暑がりをファッショナブルな人に持ち上げてくれました。が、逆にウォームビズは、装いを巧く演出している人を単なる寒がりに貶(おとし)めてしまう恐れを含んでいます。私は以前からベストを好んで着ますが、先日ある人から「おっ、早速ウォームビズですね!」と言われ、少々複雑な思いをいたしました。
 恐らくは、業界の早計な独り善がりに終わることとなるでしょう。安易に柳の下の…を狙ったりせず、なぜじっくりと我慢して次夏に満を持すことに心血を注ごうとしないのか。ウォームビズは来年のクールビズ商戦にまでかえって水を差してしまっているように思えてならないのですが、いかがでしょうか。

●店にも「体温」があるように感じます。これは熱の入り方といったもので、規模とも嗜好や波長などとも違うものです。大資本の店の中でも、主張がひしひしと伝わってくる高体温の店もありますが、例えばメーカー直営の採算度外視なアンテナショップなんかは、内装は豪華ですが、体温は概して低いように思えます。
 もちろん客にも体温の高い低いがありまして、低体温の店は低体温の客が得意なわけです。不幸なのは、高体温を志向する当店のような店に駅ビルのチェーン店のようなつもりで入店された低体温の方々でして、我々は彼らの体温が上がってくるまでじっと待つことにしていますが、店の高い体温にうだってしまう方も多いようで、そうなると、会話はおろか目を合わせてもくれないこともあります。
 運良く、店の体温と客の体温とがちょうど合ったときに、たとえ嗜好の違う店だとしても、その店は何だか居心地がいい店、と感じるのでしょうね。

●ダウン(羽毛)の暖かさがこれほどに心地良いのはなぜでしょうか。ダウン自体に発熱作用はないのですから、暖かさの源は自らの体温です。自分の体温に暖まった空気の層を外に逃がさずしっかりと保持してくれる媒体の役目を果たしているのがダウンなのです。不思議なのは、零下30℃も大丈夫のヨーツェンのダウンを摂氏10℃の静岡で着ていても決して暑すぎるとは感じないことです。そう、夏に羽毛布団を掛けても汗をかかないのと同じです。自然のなせる調節機能なんですね。(弥)