【倶樂部余話】 No.210 六十の手習い (2006.7.1)


 「六十代男性をお洒落に見せる秘訣があったら教えて下さい。」と問われた故石津謙介氏は、「そんな魔法はないよ。六十年の間どういう興味を持ってきたかが自然に現れてくるのがお洒落な六十代の服飾なんだ。六十になるまで服装に何にも関心のなかった男に今さら周囲がいくら言ったところでもうどうこうしようがないだろう。」と一蹴されたそうです。
 このことは、今の国会議員たちのクールビズを見れば、誰の目にも一目瞭然のことと思います。
 ところが、六十の手習いというか、突然変異のようにある日から突然にお洒落に目覚める、というケースも時にはあるのです。イタリアへ家族旅行へ行ったのがきっかけだったという方もいれば、今まで服を自分で選んだことのなかった方がご家族に当店まで無理矢理連れてこられて、それ以来お一人でぶらりとお越しになってお買い物を楽しんでいかれるようになった方など、そんな実例も私は今まで数多く見ています。
 何も皆が皆、雑誌が煽るようなちょいワルおやじを気取る必要は全くと言っていいほどないのですが、ファッションが若者や女性だけのものではなく、大人の男の服飾だってずっとずっと奥が深く楽しいものだという、欧米では半ば常識になっているような認識が、日本でも定着しつつある風潮は、とても嬉しく思っています。なぜなら、それこそが当店が開店以来十九年の間変わらずに主張し続けてきたことに他ならないからです。(弥)