倶樂部裏話[12]禁煙しました(2006.11.19)


 私の禁煙の話です。ですから、もともと吸わない人で禁煙になんかまるで興味のない方には全くつまらない話だと思います。どうかご勘弁願います。でも、吸う人で、やめようかな、と少しでも考えている方、または回りにそういう人がいる方にはちょっとはお役に立てるかもしれません。

 自分自身それほど意志の強い人間とは思えないので、私がタバコをやめるのには、きっと医師の助力とニコチンパッチの使用が必要だろうな、とずっと思い込んでいました。(今思うと、それは未知なる禁断症状への恐怖感にほかならなかったのです。) 長らくそれらは保険適用外で、「タバコをやめるのにタバコ代以上のお金が掛かるというのは何だか納得がいかない」と変な理屈を付けて、家族の非難の目を浴びながらも吸い続けていたものでした。
 それが、四月には医師の診察が、そして六月からはニコチンパッチと、どちらも健康保険の適用が利くことが決まり、遂に禁煙代はタバコ代よりも安くなってしまうことになりました。おまけにいよいよ七月には大幅な値上げが決定と、段々と外堀が埋められてきた、という雰囲気で、そろそろ潮時かなぁ、と感じ始めたのが五月頃でした。

 そこで、以前にある人から「知人のヘビースモーカーが読んだだけでやめられた、すごい禁煙の本があるよ」と聞いていたので、それを一冊買いました。アレン・カー著「禁煙セラピー」(KKロングセラーズ刊)という本です。現実に一番売れている禁煙本らしいので書店で平積みになっているのを目にした方も多いと思います。それが六月始めのことでした。そして、半信半疑な心持ちのまま、のんぴりペラペラとそのページをめくり始めたのです。
 結論から先に言いますと、私は見事にこの本の術中にはまってしまい、医師やニコチンパッチの手助けを一切借りることもなく、わずか九百四十五円の本一冊で禁煙を決断したのです。その日その時は六月三十日の午後七時。約一ヶ月の間プカプカ吸いながらだらだらと読み進んでいた件の本を読了したその瞬間、ポケットからタバコを取り出して「よし、やめた!」とゴミ箱にドスンと投げ捨ててしまったのですから、脇で見ていた相川は目を丸くして驚いていました。ちょうど、まさにあと五時間後にはタバコが一斉に値上げになるという寸前のタイミングでの出来事でした。きっとそのまま何もせずに一晩明けていたら、私は値上がりしたタバコを今も吸い続けていたかもしれません。その本を読み終えたタイミングが絶妙に良かったのでしょう。
 ニコチンパッチこそ使うことはありませんでしたが、しかし禁断症状を緩和させる「気休め」にはいろいろお世話になりました。中でも、「禁煙パイポ」と「エビオス」のふたつは、何よりも有効で、感謝状を差し上げたいぐらいです。

 さて、禁煙して良かったこと、となると、これは枚挙に暇がないほどで、しかも書いたところで当たり前のことばかりなので、ここでは触れませんが、当然いいことばかりではなく、禁煙したことの弊害というのも少なからず発生するのです。
 その一は、まず、太りました。タバコやめて四ヶ月で五キロ増ですからかなりのもんです。そして体重増を支えきれず膝を痛めました。
 その二は、これが困ったことに、とても遅筆になったことです。私が一番タバコを吸うのが、ワープロで文章を打っているときでした。「文章を考える」という仕事と「タバコを吸う」という所作は、私の習慣として一体化していたのです。これを切り離すのが結構大変でして、パイポ、エビオス、そしてコンビニの百円袋菓子などを総動員してパソコンの前に向かうのですが、それでも文章は進まず、全くまとまっていかないのです。正直申し上げると、七月から九月あたりまでに書いたものを今読み直すと、一体自分で何を書いていたのか、と思うほどに集中を欠いた出来となっていて、情けない気持ちになります。この裏話のWEBへの掲載も予告より遅れてしまいましたし…。

 まあ、吸ってた期間が三十五年に対して、やめてからはたったの四ヶ月余りですから、まだまだいつまた吸い始めることやら、というところで、言うなれば禁煙初心者であります。未だに夢の中では普通に吸っている自分が出てきますから、これも禁断症状のひとつなのでしょうね。ただ、ありがたいことに、やめなきゃ良かった、と思ったことはこの四ヶ月で一度もないのですね。やめられてホント良かったなぁ、と、かの本の著者アレン・カーさんには感謝の限りであります。
 ひとつ不満は、結構大変な決意でやめたにもかかわらず、家族からの評価が低いこと。なので、これからタバコをやめようとする人が回りにいる方へお願いしておきます。見事に禁煙に成功したなら、うんと誉めてあげて下さい。それだけでその人の禁煙の決意はより確固たるものになっていくのですから。(弥)

※追記
 この原稿を書いてから、わずか十日後の11月29日に、アレン・カーさんが、肺ガンで亡くなりました。享年七十二才。ヘビースモーカーだったのに四十九才で禁煙し、その経験から「禁煙セラピー」を著し、世界で二千五百万人以上を禁煙に導いたそうです。そして彼と同じ四十九才で禁煙した私もその二千五百万人の一人となったのでした。つまり、私もここで禁煙したのですから、たとえ将来肺ガンになるとしたとしても、それでも七十二才まであと二十三年は生きられるというわけですよね。
 あらためて深く感謝するとともにご冥福を心よりお祈りいたします。(弥)