【倶樂部余話】 No.222 宝の持ち腐れ (2007.7.1)


 世に言う、宝の持ち腐れ、つまり、買ったはいいけど(または、持ってはいるけど)もったいなくてなかなか使わないモノです。高価でも、クルマ、腕時計、スーツ、バッグなんかは、ちゃんと使って持ち腐れにならないことが多いのに対して、持ち腐れになりやすい代表選手は恐らくシャツと靴ではないでしょうか。高くなればなるほど使わなくなってしまう、という反比例の法則が働いているような気がします。
 なぜなのか、その理由も何となく分かります。まずその価格です。何十万円のスーツはハナから手が出ないとしても、例えば五万円のイタリア製シャツや十万円の英国製の靴ならば少し張り込んで(自分にご褒美!として)買えない金額ではありません。でもこの二つ、使った後がそのままにしておけない、という悩ましい共通点が…。使えば必ずメンテナンス(洗濯&アイロンや靴磨き)を要しますし、また使えばすぐに摩耗やキズも進行する。なので使うのについ躊躇してしまうんでしょうね。
 もうひとつ、この二者には共通の特徴があるのですが、お分かりでしょうか。それは、既製品と注文品との違いが歴然としている、ということです。先ほどの五万円のイタリア製シャツや十万円の英国製の靴ももし自分の体とちゃんと合わなければ我慢してなければならないわけで、この既製品と注文品とのサイズフィット感の満足度の差は、シャツや靴の方がもしかしたらスーツ以上かもしれません。もちろん既製品と注文品との違いは、サイズのことだけではなく、自分の趣味嗜好をどれだけパーソナルに取り込めるかというディテールや仕様の許容度という面もありますし、何より将来リペアができる(シャツなら衿や袖の交換、靴では踵や底の張り替え)ということがそもそもの購買の前提となっている点も重要な違いです。
 そして、実はここに当店でシャツと靴のオーダーが好評という、そのカギがあると思うのです。くどくど申し上げませんが、決して買い物を持ち腐れにさせないだけのセールスポイントがあるのです。
 しかし、シャツやスーツのオーダーに比べると靴のオーダーというのは馴染みが浅く、さらに慣れないうちは完成姿が見えにくいので、よしっ頼んでみよっ、という気持ちになるまでのハードルがまだ少し高いように感じます。なのでこの夏も「靴を作ろう!」のキャンペーンなのであります。腐る宝より使えてこその宝ですから。(弥)