【倶樂部余話】 No.235 フィッシャーマンズ・ストライキ (2008.8.1)


 燃油の高騰で採算が取れず全国一斉休漁という行動で世の中にその窮状をアピールしたフィッシャーマンズ・ストライキ。何しろ売上げの半分が漁船の燃油代で消えてしまうのではそりゃたまらないでしょう。ところが「時化(しけ)で入荷がない日みたいなもんだと思えば、大した影響はないですよ」と、築地市場の人たちは妙に冷ややかなコメントを発していました。私がここで考えさせられたのは、魚の値段は誰が決めるのか、という基本の問題。自分で捕った魚に漁師さんサイドでは売値が決められない、という漁業流通の仕組みです。競り(オークション)という値決めの方法は分からない訳じゃないのですが、それでも、生産者ばかりに損が歪んでいくようで、どこか何かおかしい、と思えてならないのです。柄にもなく、「コレじゃニッポンの漁業はどうなっちゃうんだ、大変じゃないか。」と一人叫んでしまいました。
 私たち小売業にとっての最大の弱点は何か、というと、私は、自分自身ではモノが作れない、ということだと思うのです。誰かに何かを作ってもらわなければ商売が始まらない。モノの供給を止められたら首根っこを押さえ付けられたのも同然なのが小売屋です。だから、売り手にとって作り手はとても大切、ともに育み合うべきパートナーであるはずです。もちろん、安く仕入れて安く売る、は商売の鉄則でありますが、しかし「お客様のため」という名の下で、お客様第一主義と単なる消費者迎合を履き違えたまま、売値を下げるために生産者や中間業者をいじめて叩いて、適正な利益を配分してあげなかったら、作り手はやがて疲弊し立ち行かなくなるだろうことは明らかです。そうなって困るのは今度は売り手の方なのです。このことは繊維縫製業でも全く同じでして、現に私どもにとって、今お願いしている国内の縫製工場がもうこれ以上なくなってしまったとしたら、ホントに困ったことになるのです。
 大規模小売店が流通のイニシアチブを握り、つまり価格決定に強い力を発揮するようになった現代の流通においては、小売業は生産者を守ってあげないといけない義務を負っている、と私は思います。何も難しいことではないはずです。例えば、セブン・アイ(ヨーカ堂)の鈴木さんとイオン(ジャスコ)の岡田さんが二人して「魚を今までより高く売りますけど、どうか買って下さい。日本の漁業を守るためにです。」と訴えれば、賢明な日本の消費者は少なからず共鳴してくれるものと思うのですけれど…。(弥)