【倶樂部余話】 No.236 いいご縁を戴きまして… (2008.9.6)


 新しい仕入先というのは、こちらから探していくことも多いのですが、逆に先方から当店の実績に一定の評価を頂戴してアプローチの声を掛けていただける場合もあります。この秋冬物からスタートする以下の三つの仕入先は、ありがたいことにどれも後者のケースなのでした。

★葛利(くずり)毛織さん(愛知県一宮市木曽川町)を七月にお訪ねした当初の目的は、純粋に工場見学でした。しかも、先方とはそれまで一面識もなかったので、懇意にしている生地問屋さんに仲介をしていただきました。単純な興味で、今も稼働する旧式のションヘル織機をこの目で見たい、それを話のネタにでもできれば、という程度の気持ちだったのです。
 ところが、話が弾んでいくうちに、どうせなら直接商売しましょう、というように事が進んできたのです。それは従来の業界慣習では考えられないことでした。通常、機屋さんの販売は一反(約60m)ごと、対して我々洋服屋の仕入れは10cm刻みですので、両者の売買の単位が大きく違うのですが、それを工場出荷を10cm単位でやりましょう、というのですから、葛利さんとしては大胆な提案であったのです。
 少々面食らいましたが、先方の熱意にもほだされ、双方の仲介の労を取ってくれた生地問屋さんにもちゃんと筋を通して了解を取り付け、いよいよ今シーズンからふっくらとしたションヘル織りの自慢の服地が尾州のファクトリーから直接届くようになったということなのです。

★ドーメル(本社パリ)と言えば、スキャバルと並んで英国生地の老舗マーチャントです。パリが企画する英国服地として永年人気があり、古くからある街角の仕立屋さんのウィンドウには今でも必ずドーメルの名前が飾られています。そんな先入観があったので、初めに売り込みのアプローチがあったときも「きっと未だに旧体質な代理店方式で、高い生地値でステータスを迫ってくるのだろうなぁ」と高をくくっていたのですが、さにあらず、でありました。フランス本社が直接日本法人を作り、また英国の有力工場を買収し傘下に収めるなど、物流とモノづくりの両面で革新を遂げ、驚異的なコストダウンを実現していたのです。英国でもこんなに艶っぽい色気のある生地が織れるのか、と思うほど美しい服地なのですが、その生地が先日フランスの本社倉庫から直接ここに届いたのにはちょっと驚きました。
 いったん凋落した後に体制を作り替えて蘇ってくる古いブランドというのが、近頃は珍しくないですが、ドーメルもその一つ、復活した老舗ブランド、と言えるでしょう。

★三番目は、ラコステ。ええ、あのワニでお馴染みの、であります。先方からの誘いには、なんでウチに?と、正直私もちょっとびっくりしたのですが、何でも、百貨店、直営店、大手セレクトチェーン店、といった現状の販売店以外にも、地方の品揃え店にワニのマークが置いてあってもいいんじゃないだろうか、という計画が始まったそうで、当店がフランス本社の承認を通った日本初のケースになったということなのです。ですので、並行品でも闇ルートでもなく、ちゃんと正規の取扱い店としての位置付けになります。
 今までこの店では、ワンポイントのブランド品というのはほとんど否定してきましたが、唯一ラコステだけは拒むことができません。なぜなら、ここが世界で最初にワンポイントを発明した元祖であるからです。

 このような援軍の支えをもらって、当店21年目の秋が始まりました。今シーズンもどうぞご贔屓に。 (弥)

※現在ラコステの取り扱いは休止しています。