倶樂部余話【十四】ロイヤル・ウェディング担当の栄誉(一九八九年十一月十日)


ロイヤル・ウェディング。いうまでもなく、英国王室の婚礼の儀であり、その権威を世に知らしめる最大の儀式のひとつである。一九八一年のチャールズ皇太子とダイアナ・スペンサー嬢との婚礼は、記憶に新しいところだろう。つい、関心はダイアナ妃に集中してしまうのだが、今回の話は新郎の方の衣装についてである。ロイヤル・ウェディングの際の、新郎始め男性側の婚礼衣装全般を永年に渡り担当しているのが、ギーブス&ホークス(G&H)なのである。

G&Hは、ロンドン・セヴィルロウ一番地に本店を置く、創業二百年を越える老舗の紳士服店だが、元来は陸軍服御用達のギーブス社と海軍服担当のホークス社が合併したもの。それこそ、その軍服にまつわるエピソードは数多く、とてもこの紙面でご紹介しきれるものではない。

かつて七つの海を支配した大英帝国の名残りなのか、今でも英国陸海軍の要職のいくつかは皇太子が務めており、このことが婚礼衣装担当の栄誉につながったのだと言える。そして、エリザベス女王からは陸軍服の、夫君エジンバラ公からは海軍儀礼服の、チャールズ皇太子からはスーツ全般の、それぞれ御用達の指定を受けている。その証しである「ロイヤル・ワラント(各王室の紋章)」を三つ掲げる紳士服店は、ロンドン広しといえども、G&Hただ一社である。

背広のルーツが軍服であるように、古い企業には特定の儀礼服がいまだに存在するらしく、私が訪ねたときも、金ボタンに「バンク・オブ・イングランド」と刻まれたピンク色のモーニングがずらり十着ほど、ちょうど仮縫いの最中だった。女王陛下との謁見の際にでも使われるのだろうか。

英国のあらゆる儀式を知り尽くしたG&Hのフォーマルウェアが今年日本でもデビューした。数少ない真の「意味ある」フォーマルブランドを、ぜひご覧の上、お役立ていただきたい。

 

 

※余話【六】に続いて、ここでもG&Hのヨイショ話です。文中のロイヤル・ワラントですが、これは法人ではなくてあくまでもオーナー個人与えられるものなのです。なので、G&Hも創業家から香港系企業に経営が移った時点で、三つのワラントは剥奪されたようで、現在のG&Hのロゴには栄光の三つの紋章は消えています。

 

なお、その後のダイアナ妃の悲劇の死については、余話【※】に後述しています。

 

記事より。「いよいよ、第一回『カクテル・パーティ』を開催します。」とあります。次はその時の案内状をご紹介します。