【倶樂部余話】 No.261  スーツとは黒柳徹子なり? (2010.8.26)


 大学生の頃、湘南のある市民劇団で音の担当をしていました。とある公演の観客アンケートに「音楽の使い方が良かった」とあり(きっと私の友人がお世辞で書いたのでしょう)、私がにこにこ喜んでいたら、座長に怒られました。「音が良かったなんて、悪かったと同じ。そこが目立ってしまう芝居はいい芝居とは言えないんだよ。」
 いきなりですが「徹子の部屋」。ここで「徹子さん、うまいなぁ」って思う時がありますか。不思議にあまりそう感じることはないはずです。他の対談番組で「この聞き手、なんか下手くそだなぁ」と思うことは多々あるにもかかわらず、です。要は「うまい」とすら感じさせないほどあまりにも自然にすんなりと相手の言葉を引き出している、それほどに黒柳さんは稀代の名インタビュアーなのですね。もちろんそれは才能だけではなく、下調べも半端なものではないとよく聞きます。
 さて話はスーツです。良いスーツスタイルというのはつまり「徹子の部屋」のようなものです。スーツ自体は非の打ち所なく、しかも目立たず浮かれず。そして、その日に何をするかを考え、シャツやタイ、靴などに精一杯の配慮を向ける。全力を注いでいるにもかかわらず、力んだ様子はかけらも見せない。
 下手な着こなしだなぁと指摘されるのは論外としても、「いいスーツですね」と言われているうちもまだまだで、更にそれすら気付かせないほどに目立たないという領域に達するのが最良の評価であると言えます。すなわち、スーツとは黒柳徹子なり、であります。(弥)