【倶樂部余話】 No.276 父を天に送りました (2011.11.1)


 父、野沢武良男を天に送りました。享年八十歳。「変わらずいつもお洒落だね、ダンディだね」と言われるのが嬉しくて、帽子とステッキで呉服町通りを闊歩して店へ往来する父の姿はお客様にもお馴染みだったことと思います。
 「銀座をつまらなくしたのは、ボールペン、ビニール傘、百円ライター、この三つだそうです。でも故人にはこれらは全く無縁でした。彼は、万年筆にこうもり傘にデュポン、の粋な人でした」交遊の深かったエッセイストの山川静夫さんからはそんな弔辞もいただきました。
 三年前にちっちゃな膵臓がんが見つかり、切らずに抗がん剤治療を続けていました。いよいよ痛みとの戦いになるのか、という矢先、パタンとあっけなく逝ってしまい、本人が望んでいたピンピンコロリにかなり近いものでした。
 振り返れば呉服町通りの野澤屋ビルにVANを扱うジャックを開店したのが四十年前。以来、静岡にトラッドなメンズファッションを根付かせる、という創業の精神が今のこの店へとつながっています。その流れを絶やさぬよう、後継者の私は努めなければなりません。
 まだまだ事後のあれこれがいろいろとあって落ち着きませんが、取り急ぎご報告まで。今後ともよろしくお願いいたします。(弥)