【倶樂部余話】 No.285 開店25周年記念・プロ棋士たちのスーツ(2012.07.27)


 この秋、この店は開店二十五周年を迎えます。四半世紀。よくまあ続いたもんです。で、記念に当店だけのオリジナルのスーツ生地を作ることにしました。
 服地の別注は、二十周年の時にハリスツイードでやりましたが、このときは既存の生地をベースに、配色を独自に指定し乗せ換えたものでした。それに対し今回はウールの原料から、糸、織り方、配色に至るまで、すべてがオリジナルで、正真正銘世界で当店だけの服地を作ろうという企てですから、実現できるのかどうか、ちょっと冒険でした。
 当初からの私のアイデアはこんなもの。「英国ハリソンズのフロンティアのようなどっしりと重量感のある平織り、仏ドーメルのアマデウスに見られるようなマッターホルンの青空のような鮮やかなブルーを入れたカラー、できれば英国羊毛を使いたい、これを葛利毛織のションヘル織機でスローに織り上げる」という、当店のおいしいところをすべて盛り込んだ「いいとこ取り」。こんな漠然とした着想を持って、五月の雨の日、愛知県一宮市の葛利毛織さんを訪ね、打ち合わせが始まりました。
 感覚的な私の要望に対して、葛利さんは技術者としての裏付けで答える。そんなやりとりの後、膨大な過去の見本帳から小さな端切れを探し出してきました。「求められているのはこんな生地じゃないですか。実はこの服地、プロの将棋差しの方からの要望だったんです。長時間の正座に耐え、シワの復元力も強く、それでいて上半身は動きやすく、かつ長い季節に使えるスーツが欲しい、というものです」それを見た瞬間、私「そう、これです、これ。この感じ」と。
 そこからは意気投合、かくして私のわがままを葛利さんがカタチあるものにしてくれることに。試し織りの見本生地も先日届き、上出来の仕上がりです。開店二十五周年記念、プロ棋士たちのスーツ、いよいよ発売になります。(弥)

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