【倶樂部余話】 No.294 マトリョーシカ人形 (2013.04.25)


 マトリョーシカ人形ってご存知ですよね。こけしのような女性の人形がだんだん小さくなっていくつも入れ子構造で重なるように収納されている、ロシアの土産物です。
 「マトリョーシカちゃん」という絵本があって、娘たちがまだ幼い頃かなりのお気に入りだったことを思い出します。
 さて、ひとつの型紙を元にしてサイズ違いの型紙を作っていくことをグレーディングと言いますが、このグレーディングをしたボディをサイズ違いで重ねるとあたかもマトリョーシカ人形のようになります。シャツやカットソーなどはほとんどきれいな同心円状に入れ子になりますが、スーツやジャケットとなると必ずしもそうはなりません。お分かりでしょう、人間の体型の変化って、そんなに都合良く拡大縮小コピーのように均一に変わってくれるわけではないのです。お腹は出ても背中は太りませんよね。また太っている人と痩せている人ではゆとり量も違います。意外に思われるかもしれませんが、太っている人ほどゆとり量は少なくしないといけないのです。
 このグレーディングの巧拙が一番顕著に現れるのがトラウザーズ(スラックス)でしょう。へたな典型はウエストが大きくなると太腿までブカブカになってしまう、というもの。巧いところになると、サイズが大きくなると型紙はだんだんいびつな「じょうご(ろうと)」のようなシルエットに変化してきて、サイズ違いを重ねてもキチンとマトリョーシカにはならない。悔しいかな、この点が欧州の製品は大変長けていると感じます。グレーディングというと普通は基本サイズからどんどん大きくしていくものなのですが、恐らく欧州の製品はかなり大きなサイズを基本にしてそこから小さくグレーディングしていく、という、日本と逆のやり方を取っているのではないかなと思うのです。
 今回トラウザーズを愛でる特集を迎えることになって、つらつらとそんなことを考えました。(弥)