倶樂部余話【十七】「いただきます」の喜び(一九九〇年二月十四日)


小売業ですから、物をお渡しすることは生業として当然ですが、時として、お客様から物をいただくことがあります。

郷土のお菓子だったり、出張みやげの海産物だったり、また自家製の果物やパイであったり、あるいは旅先で見つけた絵や版画であったり。

情報をいただくこともあります。本・雑誌や映画をご紹介いただいたり、更に、コピーを取ってお持ち下さったり。

遠隔地への転居のお知らせは寂しいものですが、出来る限り当店のテーストに近い最寄りのお店をご紹介するようにしています。また、私信の年賀状には、思いがけない驚きで恐縮してしまいます。

更に、いただくものといえば、お客様のご紹介。ご同僚ご友人を伴ってのご来店や、近ごろはお父様をお連れいただく方も目立っています。

こう思い巡らすと、私たちは商品代金以外にもいろいろなものをお客様から頂戴していることに気が付きます。そして、そのほとんどは決して高価なものではありませんが、「セヴィルロウなら分かってもらえる」「野沢なら喜ぶだろう」といった、いわば「相手の顔の見えるもの」ばかりです。「お客様の顔の見える商売を」と心掛けてきたことへの、ささやかなる返礼ではないか、と幾分自惚れた気にもなるひとときです。

しかも、私たちの場合、これは仕事ですから、どうしてもどこかで「売上につながって欲しい」と見返りを期待する色気が出てしまうのですが、お客様の場合は、これは全くと言っていいほど掛け値なし、気持ちのみのものであるだけに、本当に心の励みになります。

店員と客という立場を踏まえて、なおその枠にとどまらないコミュニケーション。私たちにとって、かけがえのない財産なのです。

 

 

※今読んでもこれは名文だよなぁ、と自画自賛。

 

この号は、いろんなご案内を別紙で添えた複合ものでした。かいつまんで紹介すると、

 

★第三回「カシミア・ファイナルフェア」…季節の終わりのメーカー残品を集めた特集でした。

 

★「ホワイトディ・パック」の予約販売…当時はまだホワイトデイが定着してませんでしたので、男性客にオリジナルパッケージを用意しました。英国製のレースのハンカチと札幌の銘菓「白い恋人」をセットにして申し込みを受け付けました。これは皆様に喜ばれた大ヒット企画で、百二十個も売れました。

 

★第二回「カクテル・パーティ」~春のラム~の受付開始…二回目からはご婦人の同伴も積極的に呼び掛けました。シニア世代十一名(うち女性二名)、ジュニア世代十八名(うち女性六名)、計二十九名で成功裏に開催。このカクテル・パーティは日経新聞でも取り上げられました。

 

※なお、私事ですが、この号発行の二日後に、第一子の長女が生まれました。