【倶樂部余話】 No.299 だけどなフラノ  (2013.09.01)


 夏になると楽しみなラジオ番組が「夏休み子ども科学電話相談」です。子供たちの無邪気な反応も笑えますが、私はむしろ回答者の巧拙を面白がっています。その道の第一人者である科学者の面々がいかに平易な言葉で子供たちに分かるように話すか。本当に難しい。その中ですごい人だと感じさせるのが昆虫の矢島稔さん。番組発足から30年来の名物回答者ですが、その回答は、わかりやすさを超越して、哲学的な感動すら覚えます。科学が好きになってしまいます。
 難しく言うのはむしろたやすく、分かりやすく言うのは大変難しい。私の分野ですとその最たる例がスーツです。難しく語るならいくらでも言えますが、どう平易に訴えるかに腐心します。そして考えついた「プロ棋士たちの背広」と「奈津井さんのスーツ」、これがありがたいことに連続ヒットとなりました。さあ今シーズンはどうしよう、ネーミングのプレッシャーにちょっと困りました。やりたい生地自体はもうとっくに決まってるんです。「葛利毛織のsuper140’s梳毛フラノで杢の新色。経緯(たてよこ)64番手双糸をションヘルで織った逸品」、ってこれじゃ何のことだか、ですよね。
 このフラノ、葛利では長年定評のロングセラー生地ですが、実は英国製にもイタリア製にも引けを取らない、世界でも類を見ないフラノらしからぬフラノなのです。何と呼ぼうか、長考しましたが、結局ベタに「だけどなフラノ」と名付けました。ちょっと面白味がないかな。何が「だけど」なのかは別項でお話ししましょう。
 ともかく、さぁ9月。27回目の秋が始まります。(弥)