【倶樂部余話】 No.309 敷居が高くて後ろに倒れる (2014.6.25)


 「お店の敷居が高くて…」と時々言われますが、このほとんどの場合が誤用です。役不足(力不足と混同)、確信犯(思想犯政治犯など罪意なき犯罪のこと)と並ぶ三大誤用なんだそうです。本来「敷居が高い」は、不義理をしていたり負い目があったりで先方を訪問しづらいことを指すので、高級店や上流品であることが理由で入りづらいということならば、ハードルが高い、などと言うほうがいいのかもしれません。
 目の保養。これは誤用ではないのですが、ご来店早々にいきなり「目の保養に来ました」と言われるのは実はあまりいい気持ちがしないのですね。店は美術館ではなく物を売ることで成り立っている場所ですので、たとえもしも結果的に冷やかしだけで帰られることになってもそれはそれで全く構わないし、買う気のない人をその気にさせてしまうのもまた店の力ではあるわけですが、しかし、はなっから購買意思ゼロを高らかに宣言してくれなくとも、と思います。ご本人はご謙遜のつもりでおっしゃられているのでしょうが。
 さて、今のようなセールの時期になるといつもとても気になっているのが「後ろ倒し」という表現。すでに辞書にも載っているそうで、間違った日本語ではないのでしょうが、これどうなんでしょう。もちろん前倒しの反対の意味だとはわかりますが、何か言葉としてかっこ悪くないですか。前のめりに倒れるのは、たとえ気持ちだけが急いて足が空回りしているとしても、前へ行こうという強い意志が感じられるの対して、後ろに仰向けでばったりと倒れるっていうのは全く様にならないでしょ。背中を押されるのと胸を突かれるのとではイメージが全然違います。わざわざ後ろ倒しなどと言わなくても、後送りとか先延ばしとか、日程を遅らせました、など、ほかの言い方はいくらでもあるはずだろうと思うのです。後ろに倒されるのはごめんです。(弥)