【倶樂部余話】 No.310 お椀ひと型だけというブランド (2014.8.1)


 この夏に店で売り始めた異色の3アイテム、脚立、ビスケット、漆のお椀。その共通点、まずどれもが洋服屋とはまず無縁だということは自明でしょう。これらを洋服屋で売るから異色なのですから。次に、どれも自家用が高じて販売に至っているとの共通点があります。自分で使っているうちどうしても人にも勧めたくなったという動機です。さらにもう一つの共通点、それはどれも一本勝負の商品だということです。
 小さな個展から総合大展示会まで、服飾や雑貨インテリア、国内モノ海外モノ、恐らく一年を通すと年間で何千というブースを見て回ります。そういった展示の多くはコレがありますアレもあります、といった総花的な見せ方がほとんどです。もちろんそこに貫かれた企業方針やブランドコンセプトが実に見事であったり、自分自身と共感を持つことがあればそこに興味を示していくわけですが、そんな中にあって、うちはこれだけ、というとてもシンプルな出店をしている小さなところも割とあります。私はこの潔い態度にこそ惹かれるのです。長谷川工業は脚立だけの専業だし、北陸製菓はハードビスケット一筋に五十年の会社です。
 中でも「お椀や・うちだ」の一本勝負ぶりには感服しました。福井県は鯖江に二百年続いた老舗漆器屋の八代目が新たなマーケットを狙っての新ブランドですが、商品はお椀ひと型だけで色違いが数色、という簡潔さ。始めたばかりだからかなぁ、と思っていたら、翌年もその次の年に会っても相変わらずこのひと型だけで、何度尋ねても別のカタチを増やすつもりはないと言います。一ブランドがひとモデルだけ、なんて聞いたことがありません。よほどの自信に違いありません。φ12㎝高さ7㎝のなんてことないお椀ですが、持っても重ねても確かにしっくりときます。これが二百年の歴史の中からたどり着いた末のこれ以上もう変えようのないほどに完成されたカタチなんだろうなぁ、と思うと、なんだかほだされてしまったのでした。(弥)

「お椀や うちだ」webサイトはこちらです。http://owanya-uchida.jp/

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