【倶樂部余話】 No.321  儀礼と社交 (2015.6.25)


 仕事柄、礼服で葬儀の場に臨むと、ときどき同席する知人にこう訊かれます。「野沢君、僕の礼服の着方はこれで間違ってないかな」 これ、答えに窮する時があります。仮に間違いを指摘したところでもうその場で修正ができませんから、私のせいでその方に嫌な思いをさせるだけで、どう言ってあげればいいか困ってしまうのです。
 よく目にする間違いはふたつ。まず、ボタンダウンシャツ。これは本来カジュアルなシャツですので礼服に用いてはいけません。それからスラックスの裾のダブル仕上げ。屋外で泥汚れを嫌って裾を折り返したのがその起源ですからこれも礼装にはふさわしくないのです。
 そもそも根本的にフォーマル(儀礼服)とソーシャル(社交服)を混同している人が多いです。フォーマルには守るべきルールがありますし、何より大事なのは「みんないっしょでみんないい」ということ。例えば時制。夜の服タキシードと昼の服モーニングが同じ会場にいることはありえないはずで、主催者と同じに合わせるのが決まりです。没個性でいいとは言いませんがあくまでもルールの範囲内に限ります。対してソーシャルは社交=宴(パーティ)ですから、極端な話、何でもあり、「みんなちがってみんないい」、主催者が認めるのならTシャツにジーンズだって構いません。よく「結婚式に何を着ていくか」と相談を受けますがこのほとんどは実は「披露宴」であります。だからホントはなんでもいいのです。
 それから主催者のドレスコードへの意識が弱いとみんなが戸惑います。私はよく相談者にこう答えます。「私よりも主催者に訊く方が確かです。よくわからない、と言われてもそれでも何度でも訊いて下さい。主催者にはそれを決める責任と義務があるのです」もしあなたが主催者になったときはどうかそれを肝に銘じて欲しいのです。(弥)

※註 これは、元々が顧客向けのハガキ通信という限られた文字数の制約の中で書くものですので、当話もかなりばっさりと書いています。日本国内、それも皇室関係や国際的な儀礼儀式などを除いた、一般的な葬儀や祝宴だけを想定して書いたものですのでご了解下さい。