【倶樂部余話】 No.322  ふたたび、キホンのキ (2015.7.27)


 同業の知人が相次いで服飾読本を出版しました。どちらも豊かな経験と深い知識に裏打ちされた秀作で、私など足元にも及びません。
 が、例えば、①ネクタイの幅は上着の襟幅と同じにする、とか、②ベルトと革靴と革鞄は同じ色に揃える(さらに時計ベルト、財布や名刺入れなどのすべての革小物も黒なら黒、茶なら茶に統一すべき)、といったキホンのキが書かれていません。すでに大前提の常識として省かれているのでしょう。それにもし書いたとしたら、この本はそこから言わなきゃいけないほどの低いレベルなのか、と疑われてしまったかもしれません。
 それではこういうキホンのキはどこで教わるのか。私が前述の二つの法則を知ったのは二十代の半ば、社会に出てからで、その時は目からウロコでした。③タイやシャツ、チーフの色使いは共通色を取り出して色の梯子をかけるという色合わせの基本も、そのころ初めて知りました。きっと知らないままにいい大人になってしまった人も割と多いのではないでしょうか。それほどにこの三原則が守れていない人を多く見かけます。ルール違反で捕まるわけでもないし、また掟破りはファッションの常ですので分っててあえてはずすというテクもあり得ます。お前それは違うよ、とわざわざ指摘してくれる人などいやしません。
 だからこのような基本原則はきっと店で教えないといけないのでしょう。店ならその人に合わせた個別対応ができます。いや、もっといいのは学校できちんと教えておくことでしょう。高校や大学で背広の着方の基本原則を教わる特別講義を一時間すればいいのです。正しい着方を知ることはきっと服飾に興味を持つきっかけにもなるはずです。私には指南本は書けませんが、そういう授業ならやってみたいなぁと思います。(弥)