倶樂部余話【二十九】「休日のためのネクタイ」という提案(一九九一年四月十日)


普段何気なく使っている「カジュアル」という言葉、改めて辞書を紐解くと、意外にもあまり良い意味でないということに気が付きます。Casual-lookでは「浮浪者然とした格好」ともなりますし、セーターの着こなしがうまい人を褒めるつもりで、うっかり”You are very casual.”などと言おうものなら、侮辱も甚だしいと怒られても仕方ありません。本来の意味のカジュアルウェアとは、まあ近所のコンビニへ立ち寄る程度の普段着だということでしょう。リゾートカジュアルとかハイグレードカジュアルといった表現は意味不明といえます。

この「当てにならない」言葉を避けて、このところ私たちは、オンタイム(オンビジネス)とオフタイム(オフビジネス)という分類で商品を区別しています。

考えてみれば、オフタイムであってもカジュアルではいけない場面というのはいくらでもあり、例えば、ちょっとした店へ買い物や食事に出掛ける、美術館や知人の家を訪れる、仕事上も付き合いのある人たちとの集い(接待ゴルフなど)、あるいは里帰りやデートなんかもそうでしょうか。いわば「ちょっとよそ行き」の場面で、当店で扱うオフタイムの商品のほとんどはこんなシーンを想定したものといえます。

オンタイムの服装がドレスアップ(着整える)を目指すのに対し、オフの時のポイントはドレスダウン(着崩す)にありますが、実はこれが口で言うほどやさしいものではないのです。ドレスダウンしたつもりが単なる「ダサイおじさん」になってしまうことが往々にしてあるのです。

そこでひとつの提案。オフタイムジャケットにオフタイム専用のネクタイを締める。ビジネスマンにとってタイを結ぶのは得意技、中にはタイがないと落ち着かないという方がいるほどです。ただ、オフの時のタイはオンの時とは違えて、麻使いの軽いものやニットタイ、マドラスのコットンタイ、あるいはゴルフやマリンなど自分の嗜好を伝える柄のタイなど、オフに着るジャケット専用のネクタイにすることがポイントです。

何も工夫しないとだらしなく開いてしまうシャツの襟元に、くつろぎとゆとりを感じさせるニットタイを合わせる。これで欧米のリゾート地のタイ着用パーティも概ねOKです。