倶樂部余話【336】ノーラさんの息子が亡くなると…(2016年10月1日)


「ノーラの長男が急死したのよ」とアイルランドのアンからメールが。それは一大事です。どう一大事かというと、ノーラおばさんは当社のために毎年十数枚のアランセーターを編んでもらっている大切な編み手なんです。今年もすでに数枚が届いていますが、残りの分がなかなか届かないので催促のメールを入れまして、その返信が冒頭の知らせでした。「残りは彼女の気分が良くなってから引き取りに行ってくるから、そしたら送るわね」とアンが書き添えています。ああ、待ってる人も結構いるのに困ったなぁ、しかし無理を承知で頼んでいるセーターです、待つよりほか仕方ありません。

そんな時シェットランド島のピーターからもメール。「今年は熟練の編み手がみんな引退しちゃって、作業が全然はかどらないよ」との言い訳です。

多分他人からはよくそんなんで商売になりますね、と言われることでしょう。確かに全くビジネスライクではないです。仕上がってくる品物にもばらつきがありますから、売るのだってひと苦労です。

でも、だから愛おしい、だから魅力がある、だからやめられない。しかし一人の編み手の子供が亡くなっただけで急に当てが外れてしまう、そんな脆弱な基盤の上でかろうじて成り立っている、というのもこれまた事実。こりゃもう意地というか信念というか、はい、ビジネスを超越した心持ちであります。(弥)
noradoherty