倶樂部余話【三十一】靴は健康的に歩くための道具です(一九九一年六月五日)


日本人の足はよく甲高幅広と言われますが、実はそれ以外にも、図のように、足型自体が欧米人ほど「く」の字でなく、指先と足の平の開き方・大きさが違うので、当然歩くときに曲がる箇所も違います。さらにかかとのカーブにも著しい違いがあり、つまり欧米で靴を買ってきても、まずあなたの足に合うはずはないということです。
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が、モノのレベルから言えば、欧米の革靴は、足袋と畳の歴史が長い日本とは完成度に格段の差があります。革靴を半分に縦割りしてみると分かりますが(当店にもひとつあります)、鋼鉄の背骨や天然コルクの中詰めなど、見えない部分にかなりの手間とコストが掛かっていて、ここに手を抜くと、見てくれだけのハリボテの靴になってしまいます。神田・平和堂靴店のご主人曰く「他の商品だったら絶対に買ってもらえない低レベルのものでも、靴の場合はデザインが気に入りさえすれば、足が入るだけで、履き心地がどうであろうとへっちゃらで買っているのが日本人なのです。」と。

では、経済力豊かな日本のために足型を合わせて欧米で作らせて輸入すればいいか、というと、ここで三つの障壁にぶつかります。 まず、輸入革靴には最低でも二十七%高いもので六十%もの保護貿易的な関税が課せられています。現在のガット/ウルグアイ・ラウンドで若干の自由化も期待されていますが、それにしても本来の価値より三割も高いものを何も無理して買うこともないでしょう。

次に、靴のかかとや底は必ず摩耗し交換が必要になります。履き心地のためには、修理屋ではなく、やはり作った工場へ戻して、純正の木型を入れ直して純正のパーツで新品同様に交換してもらいたいものですが、海外製品では面倒なことのひとつです。

また、靴には五ミリ単位の多くのサイズがあるので、「取り寄せ可能」は販売上不可欠な条件ですが、海外とのクイックデリバリーにはコスト・期間ともに問題があります。

と考えますと、これらの問題をすべて解決できる結論は、革やコルクから紐一本に至るまでを欧米からパーツとして低関税で輸入して、欧米と全く同じ製法技術とデザインで、日本人の足型に合わせて、国内で組み立てるという以外にありません。当店で扱う「ジョンストン&マーフィー(J&M)」がまさにこれに当たります。

先日、週二回のペースで二年ほど履き続けた私のJ&Mの靴が修理を終えて戻ってきましたが、すでに甲革は私なりに馴染んでますので、新品以上の驚くべき履き心地の良さで、この靴を買ってよかったと思う最大の一瞬でありました。

現在当店では靴が一日一足のペースで売れていますが、この半数以上がリピーター需要です。この事実が製品の確かさを物語る何よりの証拠ではないでしょうか。

ご自身の健康のためはもちろんですが、他人から「足元を見られる」ようなことのないように心掛けたいものです。