倶樂部余話【三十三】こま切れ話を手短かに(一九九一年八月十九日)


★夏は「日本人だな」という思いにどっぷりつかる季節です。梅雨、七夕、ゆかた、御輿、花火、祭り、盆踊り、甲子園、終戦記念日…。文明開化以来西洋文化を貪欲に取り入れてきたにもかかわらず、夏に「和」の風習が多く残っているということは、つまり「夏」が「summer」ではなく、欧米にはない日本だけの独特の季節だということの現われではないでしょうか。何を着ても暑いし、本当は何も着たくないのに仕方なく服を着ているようで、人々は暑さしのぎに躍起です。なのに、業界は欧米のトレンドを真似るばかりで、暑苦しいやせ我慢を押し付けるような服ばかりを作ります。この夏婦人服では半袖スーツがバカ売れだとか。紳士服メーカーも「日本の夏」にもっと真剣に対応した涼しいビジネスウェアを考えてもらいたいと思うのですが…。

★私の好きな「言葉遊び」です。クラシックとスタンダード、似ているようで違います。クラシックは、幾度かの陳腐視された時期を耐えて残った化石的価値のあるもの。対して、スタンダードは、その時代その時々に標準的なもので、不変のものとは違います。神田藪蕎麦のかえしは江戸時代のままと言いますからクラシック、銀座木村屋のあんパンは昔はもっと甘かったそうでこちらはスタンダードでしょうか。繁盛している老舗の多くは、どちらにも片寄りすぎず、この二つのバランスをうまく取りながら歴史を重ねているように思います。

★「この商売、見栄も大事、カッコイイも大事、しかし分かりやすいことはもっと大事。」最近物故された小売業界大物の言葉。

★同じ人の言。「プランはマクロに、チェックはミクロに。」けだし名言。

★コンビニエンスって何でしょう。「あいててよかった」は確かにコンビニ(便利)、でも当店だって一種のコンビニを目指しているのです。当店のファン客にとって「装い」という部分ではすべてが一ヶ所でまかなえるだけの質ある(量ではなく)品揃え、これは一つのコンビニだとは思うのですが…。

★このごろ学び多きこと。旧約聖書、ギリシャ神話、マザーグース。いつかは何かの役に立つのか? …以上、思いつくままに。

 

※東急百貨店副社長だった山本宗二氏

 

 

 

 

 

※フォーマルフェア、特別販売