倶樂部余話【三十七】私は見た、袖ラベルの女(一九九一年十二月二十四日)


この季節になるといつも気になることが、マフラーの裏表についてです。服のことを考えていただければすぐに分かるように、ブランド名や品質表示のラベルが付いている方が裏になるのが当然の訳ですが、どうもこれを勘違いして、堂々と裏返しに巻いている人を多く見かけます。

上質のカシミアやシルクなどは裏と表とでは艶が明らかに違うので、簡単に判別できそうなものだとも思うのですが、せっかくのカシミア独特の波打つような光沢を隠してしまって、いかにも「これは有名ブランドものだぞ!」あるいは「カシミア百%だぞ!」(どうだ、すごいだろ!)と言わんばかりに、ご丁寧にアイロンを掛けたが如くきちんと二つ折りにして、しかも一番目立つ首回りのところに計算尽くでしっかりとラベルを露出させている人など、私は見掛けると思わず飛びついてマフラーをむしり取りたくなる衝動に駆られます。ふさわしい人がふさわしい物を身に付けてさえいれば、人はちゃんと評価してくれるものだと思うのですが…。

さらにややこしいことに、作る側の方が、あまりに裏で巻く人が多いのを見て、ならば、と、表にラベルを付けてしまっている邪道な品も出現しています。そして一番情けないのが売る側の人間で、裏向きに畳んでしかもケースに入れたりして陳列しているのをよく見ます。これでは消費者が間違えるのも無理ないことです。作る人、売る人、買う人、各々の常識がてんでちぐはぐなのに、よくこれで流通が成り立つものだと感心します。

しからばマフラーの表裏の簡単な見分け方をご伝授しましょう。大概のマフラーには糸のほつれが出ないようにミシンで縁取りが掛けてあります。そのミシン目のきれいな方が表です。あとは表面(ひょうめん)をじっくりと見比べてみて下さい。

 ところで、先日、マフラーごときで目くじらを立てるなどまだまだ甘い、と思わせる光景に遭遇しました。OLの着ている真っ赤なウールコート、左の袖口になにやら黒く光るモノが…。なんとそこには英語で「生地イタリア製、カシミア混」と書かれているではありませんか。