倶樂部余話【四十七】うちだけに限ったことでないでしょうが…(一九九二年十二月二一日)


例年十二月のこの欄には、何かクリスマスの時期にふさわしい心暖まるような話題を、と思って書いてきました。ところが今年に限っては、恐らく皆様も多少なりともお感じでしょうが、どうも街のムードが盛り上がらないというか、なかなかほのぼのとした気分になりきれないといったところで、思案することも増え、ときどきギスギスした気持ちになりかけたりで反省しきりの毎日です。

ただ、私たちの商売には奇策とか王道とかはなく、悩んだときや苦しいときこそ「オーソドックスが一番」だと確信しています。今まで以上に、手間暇かけて地道に一歩ずつ確実に、これ以外の最善の近道はないはずです。

来年の市況はより一層厳しくなることでしょう。そこで皆様に二つほどお願いをさせて下さい。

まず「辛口の厳しい客」であって欲しいのです。商品、サービス、店舗、何に関しても、提言、苦言、クレームなど、お気付きのところは私どもにどんどんお伝え下さい。残念ながら私たちには、言われなければ気付かない点がまだまだたくさんあるのです。お客様からの苦情や問い合わせには発展のためのヒントが数多く隠されているはずです。当店を静岡一苦情の多い店にしていただけたら、と思います。

二つめは、是非とも新しいお客様をお連れいただきたいと願っています。いくら私どもが一人の方に多くの商品をお売りしたとしても、一人が一年に使う洋服代はそんなに格段に増えるものではありません。ましてや来年、今年以上に当店でのお買い物が増えるという方は(大変失礼ながら)例年ほど多くないように思えます。しかし、素晴らしいお客様を一人二人ご紹介いただけるのなら、極端な話、たとえご自身は何も買わなくても皆様はとても大事な当店の上得意客なのです。(そう、ねずみ算と同じです!)

だからといって、ご紹介料をお渡しするとか、割り引きするとか、というつもりはないのです。あくまでも皆様が自発的に誇らしげにお知り合いをお連れいただくのでなければ真の意味はないのですし、そのためには、当店が、皆様の株がグンと上がるような、恥ずかしくない店づくりに努力し続けなければならない、ということは言うまでもありません。

何だか一年中皆様にお願いばかりしてきたような気もしますが、ともかくも、今年一年、当店へのお引立てに深く感謝申し上げます。また明年も変わらぬご愛顧を賜りますよう重ねてお願い申し上げます。

どうぞよいお年をお迎え下さい。

 

※振り返ってみれば、ココがバブルの崩壊であったのだ。