倶樂部余話【四十八】ほんとにそうなる?はずれたらごめんなさい(一九九三年二月一日)


景気への不安からか、今年の年頭にはいつになく【これからはこうなる】といった予測情報が数多く集まりました。その中で特に心の動いた話をいくつか紹介したいと思います。

【えこひいきがまかり通る】

新大関貴ノ花の一言「好きだから」。結果、宮沢りえとは破局になったとは言え、あれほどシンプルで強いメッセージはありませんでした。好きに理由などないのです。今後何よりも強い判断尺度は「好き嫌い」です。

だから、仕入先と店、そして店とお客様との関係で「えこひいき」がより強く現れるようになってきます。店は「この人だけには」というお客様にはもっと贔屓(ひいき)をするでしょうし、お客様にしても「この店だけは」という贔屓の店にだけ押しが集中することでしょう。

【「安売り」が売れぬ原因になる

今は世の中全体が「安売りしか売れない」という風潮ですが、いずれその「安売り」が売れない原因になるときが近い将来やってきます。生活必需品以外は、物が足りてれば安い物をたくさん買う必要はないのですから。私はこの傾向がでてくるのは意外と早く、今年の秋ぐらいからだろうと読んでいますが…

【商品は売れず「作品」が売れる】

トレンドだからとりあえず…という物ではなく、愛着を持って長く付き合えて使い込んでいける物、手の温もりの伝わる物、慈しんで鑑賞する価値すら持っている物、そんな「作品」的な商品の評価が高まってきます。アランセーターなどはずばりこれに当たりますし、オーダーメイド等もまさに「あなたのためのただひとつの作品」です。

また、店の人が惚れ込んでフットワークを使い苦労してようやく仕入れた品、こういうものは興味のない人にとってはただの商品にすぎませんが、そのみせにとってはだいじなだいじな「うちの店の作品」に変化します。

作品としての思い入れを伝えていくには、作る人→仕入れた人が直接売る→使う人、といった単純な物の流れでなければなりませんから、この「作品」的な品揃えを増えしていくことこそ、小規模な専門店の真骨頂ではないでしょうか。

【ターゲットではなくパートナー】

お客様は、売り込むためのターゲットではなく、共に成長するためのパートナーです。一方的なマスメディアの「情報」より、相互の会話から積み重ねられてくるクチコミによる「評判」が何よりも信頼のおけるものとなります。

お客様との会話の中から、共通の価値を育てていくことが求められています。

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私自身おめでたい性格なので、自店に都合のいい話ばかりを挙げたかもしれません。いずれにせよ、厳しい市況の最中、どうせ苦労するなら好きなことで苦労したい、と思うのは誰でも同じはずです。だから、楽観的に、当店の前途は明るい、と信じています。

 今年も、お客様ともっともっといろいろなお話をしたいと思います。どうか飽きることなくお付き合い下さい。

 

※カシミア・フェア。ホワイトディ・パック、この年は帯広・六花亭のホワイトチョコ。


※往復ハガキでアンケートを同封。