倶樂部余話【五十四】強い援軍に支えられて、セヴィルロウの秋は走り出します(一九九三年八月三十日)


妻が雑誌でいい文章を見つけました。(ミセス九月号より/文・秦早穂子)

「秋に服を作るのは、一番重要なことである。その服は、夏をのぞいて今後一年の服装計画の基調となるし、手持ちの服や小物とうまく調和できれば、五年、十年の年月を一緒に生きられるからである。」「安ければいいという精神は、高ければいいという精神の裏返しにしかすぎず、自分の考えや美意識のなさを証明しているようなもの。」「真に得な服というのは、長持ちする品質と技術、年月に耐えうるモダンさを持っているはずだ。」「私たちはもっと自由で厳しい目で、自分なりの存在証明を服装に打ち出そう。」「不況は目覚めるにはいい機会で、こんな視線で秋の服を探したい。」と。

 

さて、この秋、当店の強い味方となる三人の男をご紹介します。
☆ジェレミー・ハケット。彼が創業の「ハケット」は、不況下の英国で随一元気なメンズブランド。ロンドンの上流団塊世代から圧倒的な支持を受けている。前身の古着屋の当時に「古き良き時代の英国服」のあれこれをたっぷりと養った彼のコレクションは、スポーツからフォーマルまですべて本物の英国を実証している。経営難に陥ったほどの本物志向をダンヒル社が支援し、現在その傘下に入っている。気難しい性格の人間かと思っていたが、私のために一時間の会談時間を取ってくれた彼は、穏やかな笑顔の好感あふれる「青年実業家」であった。
☆ブライアン・レディング。「スキャパ・オブ・スコットランド」のオーナー兼デザイナー。ベルギー在住で、建築技師の経歴もある。スキャパは英国の北にあるオークニー諸島の小さな村の名で、彼の生地である。幼少の日々を過ごしたこの村での原風景が彼のコレクションの根幹をなしている。この四月に会った彼は素朴なカントリー・ジェントルマンで、思わずかの生粋のスコッツマン、ショーン・コネリーとイメージを重ねてしまった。
N.M.氏。D社長兼デザイナー。というより、この業界では二十年前にブリティッシュ・クロージングのブランドB・Sを最初に企画した男として知られる。以来、背広が最も力強くかつエレガントであった一九三〇年代の英国服に焦点を合わせたモノ作りを続け、渋谷に自らの店を構え自らの製品を販売してきたが、このたび当店と意気投合、秋物からの展開となった。かなり細部に凝りながら中価格を実現した英国調既製服は大いに魅力的だ。

 

セヴィルロウ倶樂部、六度目の秋が始まります。乞うご来店。

※意外と言うべきか、当然と言うべきか、十三年たった今現在、この三つとも当店にはない。そして、日本では存在もしていない。(スキャパはレディスのみを日本で展開中)

 ※このとき、小改装。一階ウィンドゥの桟をはずし、二階カウンター側に採光窓を設けた。