倶樂部余話【六十一】アンダーステートメント~控えめな主張(一九九四年四月二五日)


VAN体験の団塊世代とポパイ体験のウルトラマン世代を中心に、背広への関心が再び高まってる気配をひしひしと感じます。人気は、一九三〇年代英国調の、絞りがきいた細身のシルエット、シングル三ッ釦サイドベンツ。流行とは世相の具現化ですから、人気の理由は「バブル当時のスタイルからの脱却(ルーズなダブルスーツは別名バブルスーツ?)」とか「俺は某有名郊外量販店では買ってないぞ、という証し」なのでしょうか…。

昨年の冬、当店のアランセーターを取材したフジテレビの教養(?)番組「ワーズワースの冒険」が先頃中身の濃いセヴィルロウ(背広)の特集を組みました。ギーブス&ホークスのロバート会長も出演してました。今回はその中からいくつかの話をご紹介します。

「セヴィルロウで背広をオーダーするとき、まず最初に聞かれるのは『職業はなんですか?』である」そう、当店でもかなりその傾向がありますね。背広選びのお手伝いをするのに、職業と年齢は一番重要な要素かもしれません。

「フグで没した、故八代目板東三津五郎の語った、身だしなみの条件とは、①金のかかったように見えないこと(かかっていても)②趣味のいいこと ③(外見だけでなく)教養から来る美しさがあること ④何よりも人の目に立たないこと。」さすがに人間国宝、言が奥深い。肝心なのは中身ということか。

「英国人の背広への気構えを一言で言うと『アンダーステートメント(控えめな主張)』。背広は地味に、控えめな柄のダークスーツで。逆にシャツ、タイや小物は派手に、主張を込めて」。確かに、英国のシャツやタイは割に派手です。それにカフスボタンやポケットチーフなどにも決して配慮を忘れない。日本人はダークスーツに白シャツを合わせるから主張が見えない、と言われる?

さて、ご参考になったでしょうか。これで背広はどこで求めればよいのか、もうお分かりですね。当店からのアンダーステートメントでした。