倶樂部余話【六十八】なじみの店になじみの客(一九九四年十二月二三日)


最近、百貨店で「もっといいものはないんですか?」という客からの声が増えているそうです。バブル当時には、反対に「もっと手頃なものはないんですか?」という声が多かったでしょうに…。どうして百貨店というのはこうも極端なんでしょう。人の心理の変化というものはもっとゆっくりとしたものでしょうし、急に無理矢理変えさせようとしても変わるものではないように思います。イソップの「北風と太陽」を思い出してしまいます。

電通の発表で、今年のヒット商品の共通のキーワードは「なじみ」なんだそうです。なじみやすい、なじみ深い、自分になじんでいる、価格がなじんでいる、など、かなり幅の広い一語ですが、味があっていい言葉だなと思います。上顧客のことを「おなじみさん」と言います。おなじみさんの通うなじみの店、これが物を買うときの要素としてますます重要視されてくるような気がします。

今年一年のおなじみさんのご愛顧に深く感謝申し上げます。良いお年をお迎え下さい。メリー・クリスマス!