倶樂部余話【八十二】シーアイランドコットン(一九九六年四月一五日)


シーアイランドコットン(直訳で「海島綿」)を販売するにあたり、手元の「コットンの世界」(88年・馬場耕一著・日本綿業振興会刊)を再読した。綿の最高峰といわれる海島綿が果たしてどのくらいスゴいモノなのか、宣伝媒体でない文献で確認しなければ、と思ったからだ。

まず、この奇妙な名だが、19世紀までの生産地がジョージア州フロリダ州大西洋沿岸のシー諸島であったことに由来する。

カリブ海地方の特殊な気候でないと育たないため、経済性が悪く、しばらく絶滅の危機に瀕していたが、英国の援助のもと、今はカリブ海西インド諸島の小さな六つの島のみで生産され、英国西印度諸島海島綿協会(総裁はエリザベス女王)が一切の品質管理と販売権・価格決定権を握っている。

綿の品質で最重視されるのは繊維長で、繊維が長ければ長いほど細くて強い糸を紡げる高級綿になる。一般的な綿が27㎜、エジプト綿が38㎜に対し、海島綿は平均49㎜と1.8倍、マスティック島の英王室専用綿にいたっては実に2.4倍の64㎜と、驚くほどの長さだ。ロウ分も多く、白さと光沢、シルクのようなしなやかさも大きな特徴だ。吸湿性、耐久性は言うに及ばず。

おまけに生産量が極めて少ない。高級綿とされる35㎜以上の超長綿(これとてすべての綿の4%)のうち海島綿はわずか0.07%、しかも天候にデリケートで毎年の生産量も不安定という塩梅。

つまり誇大表示でなく、まさに「ずば抜けた」最高峰、希少価値モノで、高価格もむべなるかな、と納得した次第。

82