【倶樂部余話】 No.170 (2003.3.9)
♪あの頃のぼくらは/美しく愚かに/愛とか平和を詞にすれば/それで世界が変わると信じてた♪(「五線紙」詞・松本隆、曲・阿部恭弘、歌・竹内まりや・1980年)
 20年も前の歌なのに、今でも聴くたびに私の心を揺らす一節です。
 この歌は10年振りの懐かしい再会を描いたもので、つまり、あの頃とは70年安保、ベトナム戦争、ウッドストックの時代を指しています。
 それでは、あの頃に歌った愛や平和の歌は、世界を変えなかったのでしょうか。それはやはり愚かな行為だったのでしょうか。私は決してそうではなかったと今も信じています。毎年12月の店内にジョン・レノンを流す私ですから、歌の力は世界を変えることもできるぐらい強いものだ、そう信じていたい自分がいるのだと思います。
 ここで戦争の是非を議論するつもりはありません。ただ、今ほどに、歌の持つこの力がもっと強くなってくれればいいのに、と願ってやまないときはないのです。ある人はそれを平和ボケと呼ぶのかもしれませんが、30年前に「戦争を知らない子供たち」だったオジサンは、この戦後の平和をむしろ誇りにさえ感じているのです。  
【倶樂部余話】 No.169 (2003.2.9)
今回の欧州出張報告です。
 八度目のダブリン(四泊)では、通例の仕入れのほか、自著出版の報告を各取材者にし、恩人の墓にも一冊献本を。仕事をひとつなし終えた感慨、ひとしおでした。
 ミラノ(二泊)はおろか、私にとってイタリアは意外にも?初体験。しかし、昨今の紳士服の世界は英国服とイタリア服が異常接近し、行ったことないではもう済まされない、ということで、プレゴプレゴの国へアンディアモ。事前入手した業界資料を片手に、丸二日間、ミラノ中のメンズショップを片っ端から二十軒ほど回りました。道行く多くの年輩男性が店のウィンドウ・ディスプレーを、歩きながらではなく、ひとつひとつ立ち止まりじっくりと眺めていて、こういう国民性はとても羨ましく思いました。
 一番の体験はスーツの接客を受けることでしょうが、幸か不幸か私の上着のサイズはイタリアには皆無で、狙いをスラックスに絞り、あちこちでとぼけた客のフリして突入を繰り返しました。
 正直、素晴らしい店も大したことない店もいろいろでしたが、さすがというかやっぱりというか、イタリア人店員、割といいかげんの大雑把、です。日本の店の方がよっぽど真剣に接客するよ、と思いました。まあ客の方も同じイタリア人ですから、それでいいんでしょう。 やはり自分の性格には英国的な方が合ってるかな、それに、セヴィルロウ倶樂部だってまんざらでもない、結構いい店じゃないの、などと不遜にも少しエヘンと感じてしまいました。(でも食事はやはり英国よりイタリアでしたね。)
 二度目のアムス(一泊)、飾り窓とゴッホという両極の芸術を鑑賞。九日間の旅程を終え、無事帰国。  
【倶樂部余話】 No.168 (2003.1.11)
 恭賀新年。年頭所感です。
 「だんだんお正月らしさがなくなってくるね。」という声を今年はよく耳にしました。しかもそれが、売る側からだけではなく、買う側からも、聞こえるのです。
 スーパーは元旦から、デパートは二日から、が当たり前になり、今年の二日の街中はものすごい人出でした。その代わり、年末の二日間は閑古鳥でしたが…。きっと来年は除夜の鐘から開店する店も現れるのは想像に難くありません。
 でもホントにそれでいいんだろうか、と思い始めているのは決して私だけではない様に感じます。冒頭の声はそんな気分の表れに思えるのです。
 サービス業に従事する人口は増え続けていますし、例えばコンビニのおにぎりを作る工場に勤める人などもいるのですから、まともに正月休みを取れる人は次第に減っていきます。暮れや正月もない人が増えれば、正月需要も減り、将来は、今ほどの賑わいもなくなるのではないでしょうか。何だか、今の小売業は、大蛇が自分の尻尾を食べ始めているのに気付いていない、そんな風にも見えます。
 便利なことは確かにいいことです。でも、便利さのために犠牲にしているものもある、と気付き始めていませんか。いっそ、一年に一度、正月ぐらい、家族で不便さを味わう時期があってもいいんじゃないだろうか。欧州のクリスマスみたいに、電車もバスも休みにしたらどうだろう。政府も、元旦に開ける店からは罰金を取り立てるぐらいの強権を振るえないものだろうか。
 何てことを、つらつら考えていました。初夢だと思って笑って下さい。
 本年も、倍旧のお引立てをお願いいたします。
【倶樂部余話】 No.167 (2002.12.1)
 当店が開店以来の接客方針にしているひとつが「先客優先の原則」です。飲食店なら着席順ですし、病院には受付と待合室があって、当然のようなこの原則ですが、物販店ではいささか事情が異なり、来店客は自由に店内を回遊しますし、ちょっと見の冷やかし客もいれば、2時間掛けてじっくり見るぞと言うお得意様まで、各人各様です。
 ですから、入店順ではなく買いそうな客から相手をしても良さそうですが、当店は愚直なまでに先客優先を貫きます。対面接客販売を基本としている以上、それが最も公平だと思うからです。
 営業時間は9時間もあるのに、お客様はそう都合よく順番には来てはくれないもので、申し合わせたかのようにごく短い時間に集中しがちです。二人勤務の日は定員二組ですから、三組目からはもう待ち人で、五組も重なろうものなら、もう、ろくに挨拶もできなくなりますが、それでも滅多に掛け持ちはしません。二兎を追うもの一兎を得ず、です。
 しかし原則には必ず例外あり。最大の例外は、お得意様ほど後回しになる、ということです。もし後回しになったら、それだけ私どもが頼りにしている証拠と、どうか寛容にお待ち下さい。時には、心得た、とばかりに、接客側に回って下さる方もいて、嬉しい限りですが。
【倶樂部余話】 No.166 (2002.11.1)
 自慢にはなりませんが、私は、いわゆるファッション雑誌をほとんど立ち読み程度にしか読みません。
 決して「読まなくても分かってるから」などとという不遜な理由ではなく、たとえ雑誌から新しいモノを知っても、それからではもう動くには遅すぎるからで、読むほどに、果たして自分の仕掛けは正しかったか、と不安が増すだけなのです。
 ただ、自店扱い商品の掲載だけは知っておかないといけませんので、「今月の○○に△△が載ってるょ」という情報はぜひお寄せ下さいますようお願いします。
 さて、雑誌は確かに有益な情報源ですが、留意してほしい点が幾つかあります。
★人は文字になったものを信じがちですが、雑誌の記事はお店の人の話を元に書かれているのです。中には、話も聞かずに渡された資料だけで記事を書く、いい加減なライターもいるほど。だから、雑誌記事は店員の話よりも正しい、などと信じ込まないでほ欲しいのです。
★テレビにある再放送が、雑誌では許されません。ひたすらに新しいものを載せ続けるというのが雑誌の宿命です。載せたモノが売れることよりも、雑誌自体が売れることの方が出版社にとって大切なのは当然です。
★提灯記事にご用心。雑誌の最大の収入源は広告。4ページ続けて一ブランドだけ、などという特集、あれは記事に見せかけた広告です。鵜呑みにせず、眉に唾だと思って読んで下さい。
★一冊の雑誌は、実は一匹狼のフリーライターたちの寄合所帯。中でも、連載企画は信頼のおけるライターに任されます。だから、連載物は比較的信頼度が高い、と見ていいようです。
 以上、少しは今後に役立ちますでしょうか。
【倶樂部余話】 No.165
 「マナー」について語るのは、とても難しいことです。自分自身に問い返されれば、まったく自信はありませんし、これほどに主観的な尺度に依るものもないからです。
 例えば、私は、自分の店は、「我が家の客間」と同じだと思ってますし、客間にお迎えしたゲストを心地良くもてなすためのホストのつもりでいます。決して出入り自由の気軽な空間とは捉えていません。だから、たまに、挨拶はおろかまったくホストを無視し続けるゲストを迎えたりすると、内心で(他人の家を訪ねたら、家人に出会いと別れの挨拶ぐらいするのが最低のマナーでしょ。黙って人の家に入って黙って出ていくのは、泥棒のすることだよ。)と思ったりもします。
 しかし、この方にとってみれば当店もコンビニと同じ一小売店に過ぎないのでしょうから、ゲストを責めるのは筋違いで、私は、逆に、自分自身に問いかけます。(なぜ、今の人はわざわざうちの店に入ったのに、挨拶すらしないで出ていったのだろう。ウィンドゥの展示レベルが低かったのか、あるいは、玄関先にゴミでも落ちてるんだろうか。ディスプレーに乱れはないか、照明は切れてないか。)と、表へ出て店頭をチェックしたりします。そういうときはたいてい何かの落ち度が見つかるから、不思議なものです。
 私を含めて、人格者でない多くの人間は、時として、イヤな奴ににもいい人にもなります。薄汚れてほこりの落ちているような部屋に泊まったときと、サービスの行き届いた快適な部屋に泊まったときとでは、ホテルのチェックアウトの心持ちは随分違います。前者では自分も嫌うほどのイヤな奴に、後者では自分でも信じられないぐらいいい人になっていたりすることを、発見します。あるいは、ディズニーランドに行くと自分がいい人になっていることに気付きます。つまり、いいもてなしは人をいい人にしていく、ということでしょう。
 長年、店で多くの方のお相手をしていると、(おっ、この人、前の時より段々いい人になってる。)と感じることがしばしばあります。幸い、逆のケースはまずありません。コレは、小売業をやっている中で最大の喜びの瞬間です。私どものもてなしでこの人はいい人になってきたのですから。
 流通業にセルフサービスという概念が生まれて以来、客は店と会話なしでモノを買うことに慣れ、やがて、店員と挨拶することすら忘れてしまった人も増えてきました。また、モノ余りの時代になって、店は、「お客様が望むから」という理由で、やれクイックレスポンス、やれマーケットイン、あるいは、「売場と言わずに『お買い場』と呼びましょう」(某百貨店の標語)などと、客の啓蒙よりも、客に迎合することを早道にしてきたように思います。甘やかすだけではわがままになる、これは子供も消費者も同じです。かくして我々は客として少しわがままになり過ぎたのではないでしょうか。
 ホスト(=店)にはホストのマナーがあるように、ゲスト(=客)にもゲストのマナーがあるはず。それを求めていけるような、人をいい人にできるような店で、これからもあり続けたい、と、日々の研鑽の気持ちを新たにした、セヴィルロウ開店十六年目の秋なのでした。(2002.10.3)
【倶樂部余話】 No.164 (2002.8.26)
 かなり悩んだ末の苦渋の決断です。紳士靴の取扱いを当面の間お休みすることにしました。「えっ、どうして?」という声がすぐに聞こえてきそうですが・・・。
※まず、服ならば普通にできるフィッティングサービス(寸法直しなど)が、靴にはほとんどその余地がない、という靴特有の宿命的ジレンマです。どんなに気に入った靴だとしても、フィッティングが合わなければそれまでです。 「履いてるうちに伸びますよ。」などと無責任な嘘もつけません。結果、親身にお相手すればするほどに、「欲しいのに買えないなんて」とお帰りいただくケースが増え、喜ぶ顔を見たくて商売しているのに、悲しい思いをさせてしまうとは、と次第に自己矛盾を感じるようになってきました。仮に品揃えを数倍に増やせば、このジレンマは解消されるでしょうが、残念ながら、資金もスペースもままなりません。
※服は着てなんぼ、靴は履いてなんぼ、です。当店は、服バカのための服を扱いませんし、同様に、靴マニアのための靴も扱えません。しかし「A社とB社は買ったから次はC社が欲しい」といった渡り鳥的コレクターの来店が増えているのも事実です。一線を画すためには、ここらで一旦引き出しを閉めるもまた一策かと、いう気がし始めたのです。
※もちろん、永久停止ではなく、これという商品と売り方を探り当てるまでの休止です。また、取り寄せや修理は、引き続き承りますのし、婦人靴は変わらずに取扱いますのでご安心下さい。
 私自身、靴好きで、知りたがり教えたがりの質ですから、靴談義は全く拒みません。ご相談も大歓迎です。
 ご理解の上、倍旧のご愛顧をお願いします。    
【倶樂部余話】 No.163 (2002.7.19)
 蝉の声が聞こえてくると、当店はそろそろ暇な時期になります。でも、お客様の足は遠のいて欲しくない、ということで、毎年この時期は売るためではないイベントを考えます。 萬年筆やカフス・タイピンを集めたりレース陶器人形を紹介したりと、売場スペースに余裕のあるこの時期にしかお見せできないモノを特集してきました。普段と違うモノをやると、お客様も普段と違う一面を見せてくれて、意外な方が意外なご趣味をお持ちのことを、思わず発見できたりします。
 今年は二本立ての企画です。ひとつは、英国酒場さながらのテーブルゲームやトランプを数々ご紹介。浅草で老舗の輸入玩具問屋さんに全面協力していただきました。「大人のたしなみ」を一緒に遊びながら覚えて下さい。
 もうひとつは、昨年「自由研究」で思いかけず好評でした、あなたの〜を教えて下さい、の聞き取り調査企画です。 集まったお話は、順次ホームページに載せますので、奮ってご参加を。
 店内は、恥ずかしながら、売れ残りの品評会の様相で、かなり弱気価格ですが、どれも腐心して仕入れた大事な子供達ですので、いい家人に嫁がせたいものです。 是非もらってやって下さい、皆いい子ばかりですから。  
【倶樂部余話】 No.162 (2002.6.27)
 これもO型の性格でしょうか、自分のできることは人も同じようにできる、と考えている節があり、だから、新しいアイデアが浮かんでも、こんなことぐらいは他の誰もがきっと思いつくはずだ、と思ってしまいます。
 ところが、今回の「W杯・日替まつり」は、そうでもなかった様で、こちらはほんのシャレのつもりでしたが、業界紙(繊研新聞)に記事で取り上げられたり、お客様から「これゃ面白いね。」と賞賛されたり、どうも極めてユニークな企画だったらしいのです。
 おかげで、かえって普段の六月よりもご来店の方が増えたほどで、「このせいで、アイルランドを真剣に応援しちゃいましたよ。」とか「特に買うつもりのモノもなかったのに、何だか嬉しくて来ちゃいました。」など、ありがたいお声を数々と頂戴しました。
 「近頃の客は、『あっちの店は努力してないから買ってあげないけど、あんたの店は頑張ってるから買ってあげる。』という気分で、店を選別することが増えている。」とはある大手専門店の大物経営者の弁ですが、何だか、皆さんからそう言われている様な気がして、少し自惚れています。
 自国で開催されたW杯は、私にもいい思い出を残してくれました。
【倶樂部余話】 No.161 (2002.5.23)
 何でも英国では、六月のある日、突然に「病欠」する労働者が大量発生するらしく、困った政府は「仕事中でもテレビ見ていいよ!」との寛大措置を取るよう、各企業に指示を出したそうです。
 私も、年初に渡欧した際、「働き蜂の日本人も、この6月だけは、まさか仕事なんかしないんだろ?」と、あちこちで声を掛けられました。
 W杯経済効果は何千億円、などと巷では言われ、確かに恩恵に預かるところは多いのでしょうが、逆に、経済減少効果を被るところもあるはずです。当店などは、間違いなく後者に属する方で、今年の六月はかなり悲観的です。
 でも、せっかくのお祭り、どうせなら思いっきり楽しみたい。そこで、こんな、やけくそ?企画をたてました。
 出場32ヶ国中、当店には9ヶ国の商品があります。その国が勝ったら、次の日一日その国の商品だけはオマケしちゃいましょう!これを決勝戦まで延々1ヶ月間実施。題して「W杯開催記念/勝った国だけ・日替まつり」。
 この企画で最も魅力ある国は断然イングランドとアイルランドです。もし、どちらかが優勝したら?はい、もちろん優勝イベント、考えましょう!
 これであなたは、日本以外の国も真剣に応援してしまう・・・?

注:上記の企画は、店舗へご来店のお客様を対象に想定しております。従って、誠に勝手ながら、メールやお電話などによるご購入については、適用外とさせていただきますので、ご了承下さい。  
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