The Exhibition
The LONDON CUT
Savile Row Bespoke Tailoring
Promoted by CENTRO DI FIRENZE PER LA MODA ITALIA and PITTI IMMAGINE
PLACE: Pallazzo Pitti / Apartments of Duchess of Aosta , Firenze
PERIOD: 10th. January - 4th. February, 2007
 
 イタリア・フィレンツェで年二回開催される、紳士服の祭典、「ピッティ・ウォモ」。このたび、その開催に合わせて「The London Cut / Savile Row Bespoke Tailoring 」というエキジビションが実施されました。
私は運良くそのオープニング・レセプションに立ち会うことができたので、ジャーナリストではありませんが、このエキジビションの様子をできるだけ正確にお伝えしてみたいと思い、筆をとりました。

事前に入手したプレスリリースには、このような開催の主旨が書かれていました。

 「二百年以上の間、ロンドン・セヴィルロウのテイラーたちは、有名無名多くの男女のために、ビスポークスーツを作ってきました。古くは、ネルソン提督、ウィンザー公、チャーチル首相、フレッド・アステア、ケーリー・グラント、ジョン・レノンなど。そして、今日では、ウィリアムとハリーの二人の王子、ミック・ジャガー、トム・フォード、デビット・ベッカム、ブラッド・ピット、トム・クルーズ、ピート・ドハティ、などなど。
 「ピッティ・ウォモ」とフィレンツェ市の共催による当「ザ・ロンドン・カット」展は、セヴィルロウの歴史的な功績にフォーカスを当てます。それはセヴィルロウが決して過去だけのものではなく、二十一世紀の現代においても重要な意味を持っていることを示すものです。」

 会場は、広大なピッティ宮殿の建物の上層部に位置するApartments of Duchess of Aosta という空間。直訳すれば「アオスタ未亡人の間」で、本来プライベートな部屋であるこのような空間が一般公開される機会は珍しく、また部屋部屋の内装や調度品は1945年を最後に未亡人がここを引き払って以来そのままの状態で保管されているといいます。
 展示は部屋ごとに13のテーマに分けられていました。



1. Ceremonial Savile Row (セレモニー)



2. Savile Row in the Country
  (カントリー)



3. Savile Row in the City (シティ)



4. The British Royals on the Row
   (英国王室)



5. Duke of Windsor
  (ウィンザー公=エドワード8世)



6. Savile Row Evening Dress
  (イブニングドレス)
7. Savile Row at Royal Ascot (アスコット競馬)


8. Savile Row Tribute to Tommy Nutter
  (トミー・ナッターへのトリビュート)



9. Psychedelic Savile Row
  (サイケデリック)



10. Savile Row in Hollywood (ハリウッド)



11. Savile Row at Cocktail Hour
   (カクテル)



12. Savile Row Rock (ロック)



13. Savile Row at War (戦争)

 わずか200メートルあまりのロンドンの小さな通りSavile Rowの数あるビスポーク・テイラー達が、その二百年以上にわたる長い年月の間、いかに世界中の歴史や文化、風俗と関わってきたのか、が、ビジュアルに訴えられていて、大変興味深い展示になっていました。




例えば、ヘンリー・プールはエドワード七世が皇太子当時の一八六五年に作った濃紺のスモーキングジャケットを再作成し、
アンダーソン&シェパードはフレッド・アステアに作ったソフトショルダーのジャケットとフラノのパンツの型紙をもう一度引っぱり出し、またキルガーはヒッチコック映画「北北西に進路を取れ」でケーリー・グラントが着ていたスーツをリメイクしていました。

 有名すぎるほどの「サージェント・ペパー」や「アビーロード」のアルバム表紙や「ジョンとヨーコのバラード」で知られる二人のジブラルタルでのウェディングシーン、はたまた近年では物議を醸したチャールズとカミラの再婚式、などは言うまでもなく、
さらに、例えば、チャーチルが戦争賛美のポスターで着ているヘンリー・プール製の派手なチョークストライプのスーツ、デードリッヒに擬したマドンナがヘンリー・ローズで誂えた三つ揃えのツイードスーツ、
ミック・ジャガーとビアンカの一九七一年の結婚式ためにエドワード・サクストンに在籍していた故トミー・ナッターが作ったお揃いの白いスーツ、などなど、興味の尽きない服が次々に目に飛び込んできます。
 
 この展覧会のキュレーターJames Sherwood氏は、この展示と同時にSavile Row のビスホーク・テイラー達の沿革や特徴、インタビュー、を一冊の本にまとめていますが、彼はその中でセヴィルロウの25のテイラー達を四つのグループに分けて紹介しています。この分類はとてもうまい分け方だなぁ、と思います。
<The Founders>(もともとの老舗)
ANDERSON & SHEPPARD, DAVID & SON, DEGE & SKINNER, EDE & RAVENSCROFT, GIEVES & HAWKES, HENRY POOLE & CO, HUNTSMAN, WELSH & JEFFERIES.
<The New Establishment>(新興勢力)
OZWARD BOATEING, RICHARD ANDERSON, RICHARD JAMES, SPENCER HART, TIMOTHY EVEREST, TONY LUTWYCHE.
<The Renaissance Men>(復古調)
ANTHONY J. HEWITT, CHITTEBOROUGH & MORGAN, HARDY AMIES, KILGOUR, MAURICE SEDWELL, NORTON & SONS
<The Mavericks>(異端者)
DOUGLAS HAYWARD, EDWARD SEXTON, HENRY ROSE JOHN PEARSE, MARK POWELL

 ひととおり見て回って、私は、このエキジビションはふたつの画期的な意味を持っていると評価しました。
 第一は、セヴィルロウの大同団結です。二百年の歴史を持つセヴィルロウですが、基本的には一軒一軒が独立した企業体ですから、互いがライバル同士でもあり、いわばみんなが「お山の大将」なのです。だから、セヴィルロウというひとつのテーマで各社が協力するイベントなど今までなら考えられないことだったのです。それがひとつにまとまったのが2004年に発足したSavile Row Bespoke(通称SRB)という組織です。組織作りの直接の契機は、高騰する家賃と節操を欠くけばけばしい低価格店の出店に対してランドオーナーと団体交渉をするための「店子会」の意味合いが強かったようですが、いずれにしてもこのSRBなくしてはこの展覧会の開催は実現しなかったことでしょう。これには、Gieves&HawkesのManaging Director、Mark Henderson氏のリーダーシップに負うところが大きいのですが、SRBの素晴らしいところは、老舗の伝統店だけでなくビスポークの騎手といわれる新進の店たちをも隔てなく包含している点です。
実際、オープニング・レセプションの会場で、G&Hのヘンダーソン氏(ブランドビジネスから転身した才気溢れるマネージャー)、ヘンリー・プールのカンディ氏(セヴィルロウのゴッドファーザーと呼ばれる重鎮)、と、オズワルド・ボーティング氏(モデルばりに格好いい長身の黒人でビスポーク・テイラーにしてデザイナー)、マーク・パウエル氏(トミー・ナッターの継承を自称する若きデザイナーで往年のギャングスターの風体)、の四人が、グラスを片手に楽しげに談笑している姿を目の当たりにすると、セヴィルロウが過去の遺物といったような言われ方から完全に脱却し、今また時代のトップランナーのひとつとなりつつあることを実感します。
 そこから繋がるのが、二番目に言いたいことです。つまり、この展覧会が、ロンドンでもニューヨークでもなく、フィレンツェのしかもピッティ・ウォモの特別催事として開催されたという事実です。このことはまさにセヴィルロウがイタリアを含めて世界のメンズファッションに対して再び大きな影響を与えうる存在として認識されてきたのだということを物語っているに他ならないからです。

 私はこの開催の初日にこのエキジビションを閲覧したので、その後どのくらいの賑わいを見せたのかが分からないのですが、ピッティ・ウォモに行ったという身近な何人かのバイヤーに「ピッティ宮殿のセヴィルロウの展覧会、見ました?」と聞いたところ、誰もこちらの展覧会にまでは足を伸ばすことなくフィレンツェを後にしてしまったようで、いささか拍子抜けしました。あれだけの日本人が来ていながら、買い付けだけに夢中で文化催事には興味なし、とは、ちょっとがっかりです。このエキジビションを見れば、セヴィルロウが持つ歴史的な意義を改めて認識することができ、紳士服をもっともっと楽しめるのに、と思ったのですが…。(2007/02/07 文責・野沢弥市朗)
 
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