「結婚式なんだけど、何着ればいい?」これは男性からわりとよく受ける相談です。そして私はいつもこう問い返します。「本来、結婚式というのは神社や教会で挙げる宗教的な儀式のことを意味します。ただ近頃は式場施設内のチャペルや祭壇で極めて簡略化されていて、そのあとの披露宴の方に重きが置かれてます。だから聞きたいのは披露宴のことですよね」。そして披露宴はお祝いのパーティで私的な宴会ですから、フォーマル(儀礼)じゃなくてソーシャル(社交)です。だから新郎新婦よりも目立ったり礼を失したりすることがなければ、極端な話、何を着てもいいんです。私は白いアランセーターで出席を考えたこともあります。心配だったら主催者に確認することです。主催者はそれに答える義務がありますから、ためらわずに堂々と尋ねればいいのです。
詩人金子みすゞは「みんな違ってみんないい」と言いましたが、フォーマルでは逆で「みんな一緒でみんないい」。自分だけ違ってたらそれは✕なんです。特に気を付けなければいけないのがふたつ、時制と格を揃えること、です。
時制というのは、昼と夜の違いのことで、昼の服の人と夜の服の人が混在したらダメです。つまりモーニングとタキシードが同じ会場にいたら本来はおかしいんです。でも結婚披露宴ではよく見る光景です。これは、燕尾服がほぼ形骸化されていてモーニングの夜間着用が黙認化されているからです。昼型で行くか夜型で行くか、は主催者が決めますが、聞いた話では、お開きが日没後であればもう夜型で構わない、ということなので、お昼で終わる会以外はほぼ夜型と考えていいでしょう。葬儀は夜は行いませんので昼型だけです。ここで疑問となるのがお通夜(前夜式)です。本来の通夜式は遺族や親しい友人など少数の者が死者と最期の夜を過ごす葬儀前夜の儀式ですが、近頃はむしろ葬儀よりも通夜のほうが参列者が多くなることも珍しくありません。かつてはお通夜には取るものも取らず駆けつけたという体裁をつけるため喪服で行くのは失礼とされていましたが、現代では通夜式に重きを置くことが増えたため、通夜でも喪服(略礼服)を着るのが一般的となりました。
で、格というのは、正装、準礼装、略礼装、のこと。詳しく言うと、正装(夜は燕尾服、昼はモーニングスーツ)、準礼装(夜はタキシード(ディナースーツと呼ぶのが正しい)、昼はディレクターズスーツ(黒の上着に縞のコールパンツ))、略礼装(昼夜にかかわらず、黒の略礼服(日本では)もしくはダークスーツ)、この格を揃えるということです。例えば、結婚式だと、新郎父と新婦父、どちらもモーニングあるいはどちらもタキシードならいいのですが、もし片方が略礼服だとするとどうでしょうか。意地悪な見方をすると、両家の格の違いをあからさまにしているように見られやしないでしょうか。
婚礼や葬儀は誰でもが経験することで、比較的分かり易いのですが、世の中にはいろんなパーティがあって、何を着るべきか悩みます。そこで、主催者は招待状にドレスコードを書き添えてくれます。
ホワイトタイと書いてあったら燕尾服着用、ブラックタイならタキシード着用、というのはよく知られた話。とはいえ、なかなか機会はないです。しかし、ルールの決まった服装なので、服さえ揃えれば着方が難しいことはありません。
私自身の経験ですが、某国大使館からのパーティのお誘いに、こういうドレスコードがありました。まず「ラウンジスーツlounge suit」。これはダークスーツのことです。日本でいうところの平服に当たります。ラウンジだからといってくつろぐ服ではありませんよ。こんなドレスコードも。「スマート・カジュアル」。ダークスーツでなくていいけどジャケットは着てください。ネクタイは着用が望ましいですが、スカーフやポケットチーフで代用してもいいです。ラウンジスーツよりも華やかさや遊び心が欲しいです、といったような意味でしょうか。
こういう着こなしのルールというのは、間違っていても罰金が取られるわけでもなく、まず誰からも咎められることもありません。ただ後から知って取り返しのつかない恥ずかしい思いをすることになりますし、場合によっては大変な失礼をしでかしてしまっていたかもしれないのです。今の世の中、ちょっと調べれば分かることばかりですから、どうか関心を持っていただきたいです。
不安は必ず表に出ます。礼装をかっこよく着こなす、最大のポイント。それは、これで正しいんだ、と、自信を持って着ることです。