【倶樂部余話】 No.252  及ばざるもまた過ぎたるが如し?(2009.12.15)


反省文を書きます。実は今年ほど不安な気持ちで過ごした一年はなかったのです。新店舗へ引っ越して最初の年ということもありましたが、それ以上にここまでデフレが進んで消費マインドが冷え込むとは思ってもみませんでした。
そんな中で今年売れたモノと売れなかったモノを、三つの商品群に分けて考えました。まず、新店舗に新しい風を、と意気込んで導入した新規の取引先の商品ですが、ベルトのようにヒットしたアイテムもあったものの、残念ながら全体にもう一歩というところで、多くが予想を下回りました。次に、例年一定の売上げがあり、今年もこのくらい入れておけば、という、俗に言う安全牌(あんぱい)の商品群ですが、これもまた力及ばず今ひとつの成績でした。最後は、ずっと売れ続けているけれど年々販売量が減ってきていて、これは既にほぼ行き渡ったようなのでさらに発注数を手控えておこう、と抑えめにした商品群。ところが実際にはこれがよく売れて数が足りなくなったのでした。
つまり、ふたを開けてみれば一番自信のある当店らしいモノが一番良く売れた、という、至極当たり前のことなのですが、この結果は、今までの自らの積み重ねを自分自身でちょっと軽んじてしまっていたからではないか、と反省をしているのです。不安の中で自信を失うことも多かったのですが、(なぁんだ、もっと自分に自信を持ってやってても良かったんだ)と今になって痛切に感じています。もちろん過去の伝統や名声にばかり頼って自信過剰になるようでは最低ですが、伝統を自信過小するというのもこれまた考えなけりゃいけません。過ぎたるは及ばざるが如し、と人は言いますが、でも反対に、及ばざるもまた過ぎたるが如し、とも言えるのではないでしょうか。
皆様の今年のご愛顧に感謝します。どうぞ良いお年をお迎え下さい。(弥)

【倶樂部余話】 No.251  「スーツは肩で着る」んじゃなくて… (2009.12.1)


チョイキズでタダ同然で格安に譲ってもらったカシミア&ミンク入りの上質なジャケット生地を、どうせ貰い物だし、と普段はあまり使わない工賃の安い工場に作らせてみました。新パターンができたというので試してみようか、と思いまして。しかし、これがどうにも着心地が悪くて仕方がない。動くたび服が身体から離れて動いてしまうし、生地は軽いのに肩が凝ってしまいます。一方、同じ頃に、普及品よりもさらに重たく織ってもらったハリスツイードの生地を今度はいつもお願いしている工場で仕立てたのですが、これは身体にしっかり吸い付いて実に動きやすく肩も凝らない。この違いをどう話せばいいだろう、と考えたのが今回のお話です。
「スーツは肩で着る」とよく言われます。私も長くそう思っていました。ところがさらに上のレベルに行くと、そうじゃなかったのです。それを知ったときには私も目からウロコの驚きでしたが、しからばどこで着るのか、というと「首廻りで着る」のです。首廻りにピタッと吸い付くように背骨のぐりぐりの一点に全重量が掛かるようになっているのです。重たい頭を常に支えている背骨(脊髄)は重量をほとんど感じないところなのですね。首廻りに重力(=下向きの力)が作用するようにクセを付けるので、相対的に肩には上への力が働き、肩は浮き気味に触れるようにふんわりと乗るというのが理想的な肩回りだということなのです。
口で言うだけなら簡単ですが、これを技術で表現するのは大変なことでして、ここで「純正鎌衿ごろし」という熟練の秘技が登場するのですが、これがどこの縫製工場でもできるわけではないのです。そして、当店がいつもスーツの製造をお願いしている二つのファクトリーは、どちらも同じルーツの指導者によって技術の伝達がなされていて、どのスーツにも当然のようにこの匠の技が施されているということなのです。
いいスーツの見分け方はいろいろ言われますが、「首廻りで着る」は確実にひとつの判断基準となるはずです。(弥)