倶樂部余話【454】あなたならどうする (2026年7月1日)


 2か月で5本の映画を観ました。

  1. 決断するとき(原題Small Things Like These) アイルランドに実在したマグダレン洗濯所(倶樂部余話【426】参照)を背景に描かれるドラマ。「イニシエリンの精霊」(倶樂部余話【412】参照)のキリアン・マーフィ主演。
  2. サンキュー、チャック(原題The Life of Chuck) 。原作は「スタンドバイミー」や「シャイニング」を書いたスティーブン・キング。世界の終わりがチャックの人生と重なって描かれる。
  3. オールド・オーク(原題 The Old Oak)。イングランドの古い炭鉱町のパブを舞台に起こる地元民とシリア難民との話。「麦の穂をゆらす風」を始め英国やアイルランドを舞台にした社会派の名作を数多く生み出してきたケン・ローチ監督の最後(自称)の作品。
  4. 箱の中の羊(英題Sheep in the Box)。そのケン・ローチを師のように仰ぐ是枝裕和監督の最新作。事故死した7歳の息子の代わりにアンドロイドを家族に迎え入れる近未来の話。
  5. 急に具合が悪くなる(仏題Soudain)。パリ郊外の介護施設で働く施設長とがん闘病中の日本人舞台演出家の二人の女性が偶然に出会い交流するドラマ。「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督による日仏独白共同製作作品。

個人的な感想を簡単に述べます。

  1. アイルランドの話なので、私なりになにか気の利いた感想でも書けるかな、と、上から偉そうに観てしまったのがいけなかったようです。知りすぎているゆえに、ああアイルランド人ならそうするかもね、と思うと何の感慨も持ち得ず、何も書く気が起こらなかったのです。人助けと思ってやったおせっかいがかえって人を傷付けるということは割とよくあることで、皮肉っぽく言わせてもらうと、原題のとおり、取るに足らない些細なことをよく一本の映画にしたな、と、思いました。
  2. 毎日聞くラジオ番組で「一体どういうことなんだ?」と話題になっていたので、観てみました。いわゆる走馬灯現象なんでしょうね。褒められたい、感謝されたいという欲望や自分のいない世界なんてなくなっちゃえばいいという意地悪な思いなんかが心の奥底に秘められているんかな、どんな人にも。虫けらにも五分の魂、でしょうか。それをハリウッド映画にするとこうなるのかな。タイトルは原題のままのほうがわかりやすかったと思います。
  3. 前の1.と2.が、決してよく理解できたとは思えなくて、少々落ち込んだ気持ちで3.を観ました。さすが、ケン・ローチ、です。思った通りの展開、思った通りの感動でした。村八分の残りの二分って、火事と葬式だけは手伝うよ、って意味だってこと、ケン・ローチも知ってたたのかな、って思いました。これから見る人のために一言アドバイス。ダラム・マイナーズ・ガラという炭鉱祭のパレードがあることを知っておいたほうがいいです。
  4. ケン・ローチの後に是枝ですから、まるで師弟対抗。是枝作品はほとんど観ているから、なんだか「歩いても歩いても」と「ゴーイング・マイホーム」を混ぜた世界にアンドロイドを入れてみた、って感じに思えましたし、こういう森の精のファンタジーのようなエンディングも、他に手はないんだろうな、と、納得でした。どうでもいいことですが、鎌倉と大船と藤沢、この3つの土地ブランド評価の微妙な違いをなんともうまく表してたな、と、あの辺に住んでいた者として笑ってしまいました。
  5. 清水で朝9時から一回限りの上映で3時間16分、という困難を乗り越えても余りある素晴らしい作品でした。最後に拍手までしちゃいました。妻にも薦めて翌朝すぐに観に行って感動して帰ってきました。5本目の最後がこの作品で良かったです。なんでカンヌでも好評価のこの映画を静岡でやらないんだ、と、思っていたら、急遽今月中旬からの上映が決まったらしいです。3時間で大変ですが、時間を忘れます、皆さんにお勧めします。

こう並べると私の映画を観る軸のようなものが見えてしまうと思います。自分では意識したことはないのですが、5本ともヒューマンドラマというジャンルに括られるそうです。確かに、アクションやSFXには関心は薄いですね。そう言えば、旅行へ行っても雄大な風景を見るよりも土地の人と話をすることの方に楽しみを感じるのは同じ趣向なんでしょうかね。そしてヒューマンドラマの観点として、登場人物に共感を覚えるかどうか、というのは大切な点でして、要するに「あなたならどうする」なんです。もっと突き詰めると「あなたはどう死ぬのか、そのためにあなたはどう生きるのですか」を問うてくれる作品、私はそんなドラマを待ち続けているような気がします。(弥)