倶樂部余話【367】移動ショップという考え方(2019年5月3日)


年二回東京ビックサイトで開かれる総合大展示会の一角に無名の新進クリエーターたちがごちゃごちゃと集まっている出展スペースがあります。狭い空間ですが、実は私が一番楽しみに時間を掛けてじっくりと見ているのがこのゾーンです。こういうところから小さな芽吹きを捉えることは私にとっての頭の体操心の訓練感性の研鑽でもあります。

今年の2月展のこと、目立たないところで、カシミアなどのレディスのハンドニット(ハンドルームを含む、以下同様)を展示している初出展のところがありました。ハンドニットのブースというと、私、手編みが好きなので私の編んだセーターを買ってください、といった趣味とビジネスを混同した独りよがりな夢見る夢子ちゃんみたいな女性が佇んでいるところが多いのですが、ここはそういう感じではなくて、気負いのないリラックスしたニットで、しかも説明する男性はとても初出展とは思えない落ち着きぶりで深い経験と秘めた自信を感じさせます。
ハンドニットに関しては、一応、私も世界最高レベルのハンドニット・アランセーターを手掛ける国内第一人者ですから、人一倍高い関心を持っています。どこで編ませているの?と尋ねる私。正直ここで私はアジアの諸国かもしれないと内心恐れていましたが、彼の答えは「静岡です」。えっ、静岡のどこ?「島田市。駅でいうと金谷か。静岡空港と大井川の間の茶畑の中の里山です」。知らなかった、自分の地元でこんな事やってる男がいるなんて。しかしまだ信じられないなぁ、一度この目で見ないことには。

4月のある日、その工房兼ショップ「AND WOOL」に彼、村松を訪ねました。調べて知ったのですが、彼は東京コレクションでショーまで手掛けたことのある優れたニットデザイナーだったのですね。でもいつからか、そんな華やかな場面よりも自分の生まれ育った場所を拠点にしてハンドニットの持つ魅力をこつこつと発信していきたい、という思いを持つようになってこの活動を始めたのだと言います。
地域のニッターを組織化して育成し産業化する、かつての家内制手工業が、ITと物流の進化で再び現実化してきたのです。こいつは面白い、同じ静岡でハンドニットをなりわいとするものとして是非応援したい。しかし、一番いい応援の仕方はどういうことなんだろう。ただ発注して仕入れて売る、ということではこの魅力は伝わらない。しかも商品はレディスが主だから当店の今の現状では在庫を持つこともできないし。

で思案の結果、ひとつの方法が生まれました。来月のある週末、ジャックノザワヤは店を金谷のこの場所に移動します。この二日間、お客様は静岡駅前ではなく、静岡空港の麓のショップにツアーに来てください。そしてその店と商品を見てもらいたいのです。お茶とお菓子ぐらいは用意しましょう。近くには眺めのいい和洋のレストランが数件ありますから、ドライブがてら三々五々ご参集いただければ楽しい一日が過ごせるでしょう。
店じゃない店だから、移動ショップという発想が浮かびました。成功させたいです。(弥)

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(お知らせ)

上記の趣旨にて、ジャックノザワヤは2日間だけ移動します。

日時: 6月22日(土) & 23日(日) 11:30-18:30
場所: AND WOOL ( ㈱ウールスタジオ)
〒427-0113 静岡県島田市湯日1124-1
tel. 0547-54-4492
https://www.andwool.com/
主な商品: 「& WOOL」…カシミアやウールのハンドニット。
「everlasting sprout」…手刺し調の草花柄を中心にした洋服と傘小物など。
いずれもレディス中心で、春夏物の現品と秋冬物の予約のどちらも承ります。

アクセス: カーナビは間違った場所を示すことが多いので、HP掲載の地図を参照してください。お車でない方は、金谷駅または静岡空港、から送迎いたします。
アポイントメント: 準備の都合上、参加の方は前々日までにジャックノザワヤまでにご連絡を入れていただくことをおすすめします。