倶樂部余話【三十】パワードレッシング(一九九一年五月十七日)


昨今の流行に「パワーランチ」という言葉があります。ビジネス戦略の演出方法としての昼食という意で、夜の接待よりもスマートでスピーディな商談ができるということの様です。しからば「パワードレッシング」とは? パワーランチにかけるマムシ入りサラダドレッシングのことでしょうか。

ある商工会議所で今年一月から男性のポケットチーフが義務付けられた、という話を聞きました。オジサン達の、外見にも少し気配りをしていくという積極性が、仕事にもいい影響を及ぼしてくれれば、という効果を狙ったものでしょう。また、オジサン達のためのスタイリストやセンスアップ講座なるものもちらほら出始めているらしく、うちの父がその手の話をしに出掛けていく機会も出ています。

ビジネスの演出方法として「装い(ドレッシング)」は重要な手段のひとつだと思うのですが、それを感じているオジサン達はあまり多くないようです。(あるいは気付いていても臆病になられているのでしょうか。)ただ、別に流行の最先端のモノや高価なモノを、ということではありません。また、ファッションは個性的に、としばしば言われますが、こと背広に関しては、個性的であることはかえって逆効果となることがあります。やはり基本的には、背広は戦闘服です。だから、背広自体はスタンダードなダークスーツでいいのですが、その同じ一着の背広でも、シャツとタイを変えていくことで、ビジネスシーン別の演出効果を狙うことができます。例えば、自社製品の説明のときなら冷静で落ち着いた人間ぶりを、取引条件の交渉なら融通の利く暖かな人柄を、部下の悩みを聞いてやるときは話のわかる上司ぶりを、それぞれに演出していくわけです。

このように「装いの持つエネルギーを自分のパワーとして吸収し自分をより魅力的に見せてくれるスタイルを演出すること」、これが「パワードレッシング」ということです。

石原裕次郎や加山雄三をお手本に「青春」した五十代の皆さん、平凡パンチやメンズクラブを読みふけった四十代の皆さん、ポパイに憧れた三十代の皆さん、そして氾濫するファッション雑誌の軽薄で無責任な底の浅さに気付き始めた二十代の皆さん、一着の背広を買うとき、考えてみて下さい。自分のパワーとなってくれるエネルギーを持った一着は何なのかを。

その答えのかなりの部分は当店に用意されているはずです。

 

※「うらないイベント」実施