倶樂部余話【386】 再放送まかり通る(2020年12月1日)


「見せ」ない「店」。商品を「見せ」るのはネットに任せ、事前にネットで予習してもらってから、「店」に来てもらう、という今の当店の形態。いわゆる、リアルとバーチャルとの融合、なんでしょうが、ときどき人から「野沢さん、その仕掛けが早かったね、先見の明ありだね」なんて持ち上げられます。いえいえ、そんなかっこいいものじゃないんです、ただただ背水の陣でこのやり方しか方法がなかったんですから。ともかくも、この見せ方に変えてまもなく3年、一応、成功した、と見ていいでしょう。ただひとつ、忘れてはいけないことがありまして、これはあくまでも売る側の都合でやったことであって、お客様には、ちょっと面倒くさいな、と思わせている、その面倒くささを克服してもらえるだけの魅力が当店になければお客様は離れていってしまっただろう、ということなんです。

リアルとバーチャルとの融合、は、いろんな小売店がいろいろ考えてます。ある大型店は、店にはサンプルと色見本だけを用意、まるでマンションメーカーの展示会のようにして、希望の商品は店員と一緒にその場でweb発注して自宅に届けてもらう、という手法を進めています。別の百貨店では、予約制の一対一で、テレビ電話で売り場の店員と顧客を結んで、あたかもリアルのような接客を試みる、将来はこれをすべての売り場すべての商品で可能にするため多額の投資も辞さない、と意気込んでいます。顧客の利便性を高める、なんて言ってますが、違いますよね、ぜんぶ売る側の都合です。だって、買う方は面倒くさいだけじゃないですか。好きな時間にアポなしで店に行って、気に入ったら買って、イヤならさっさと出てくる、それが一番楽ちんに決まってます。すべてのことがwebを使えば楽になる、なんて勘違いをしていたら大間違いです。

 さて、よその店のことはこの辺にしましょう。11月というのは海外物を中心に来秋冬の発注の始まりなのです。そこで感じること。今はいろんな事情でテレビは再放送が増えてますね。これが来年は私たちの業界にやってくるだろうと思ってます。展示会が開けない、今年の在庫がだぶついている、新企画をしようにも資金がない、と、ともかく新しい魅力を持ったものが出てこないんじゃないか。となると、頼りになるのはアーカイブです。だからいま私が何をやっているかというと、過去10数年間の商品紹介の記事を遡って見ていて、今の世に出して再び輝けそうなものを探しているところなんです。

このことに気づかせてくれたのは、あるお客様がアランセーターをネットで購入してくれたことがきっかけです。実は、アランセーターの売上が今年は絶好調なんですが、その方が購入のお礼のメールに30年前の雑誌記事を添えてくれたのです。そうなんだよな、何も新しいものばかりやらなくても、30年間再放送を続けているアランセーターは輝きを失わないんだから。お客さんのほうが私よりもよっぽど先に再放送の意義を感じているんだな。

またアランセーターからひとつ教わってしまいました。恐ろしいセーターです、アランは。(弥)