糸偏雑筆【1】「ポロシャツの違い~カットソーって何?」(2025.07.16.)


2つのポロシャツ、どちらも私物で15年以上愛用しています。


この2つの違いは何でしょう。

色。ナチュラルホワイトとあせた黒。
ブランド。ラコステ(日本製)とジョン・スメドレー(英国製)。
価格。(今これと同様の新品を買うとすると) 約2万円と約4万円。
生地の組織。どちらも綿100%の編み生地(織り生地ではない)ですが、カノコ編み(隙間だらけで通気性あり)と天竺編み(細番手のシーアイランドコットンでさらりとした肌触り)という違い。
といったところでしょうか。

決定的な違いは何かというと、それは、ラコステはカットソー、スメドレーはニットウェア、ということなんです。
もちょっというと、Tシャツから派生してできたポロシャツ(カットソー)とセーターから派生したポロシャツ(ニットウェア)、同じポロでも2つは作り方が全く違うんですね。

じゃあ、カットソーからお話しましょう。
まず、生地というものには織り生地(=weave)と編み生地(ニット生地=knit)があります。
織り生地はタテ糸にヨコ糸を交差させて平面で織っていきますが、編み生地はヨコ糸だけで編んでいきます。一般的に釣り鐘のように丸くぐるぐると編んでいって、編み上がったものに縦にハサミを入れて平面の生地として管理します。
  カットソーは、その編み生地を各パーツに裁断(=cut)し、それを縫い合わせ(=sew)て作ります。だからcut&sewでカットソーです。編み生地は裁断したままだと端がほつれたり丸まったりしてしまうので、それを防止するためにかがりながら縫い合わせるミシン(インターロック)が多用されます。
  製品で確かめてみましょう。ラコステのボロシャツを裏返してみます。生地の向きがわかりやすいように今度はボーダー(横ストライプ)の私物を選びました。


袖付のところ、ほぼ45度に向きの違う生地をロックミシンで縫い合わせています。袖口にはリブ編みのパーツ(いわゆるちょうちん袖)を付いてます。袖リブがひっくり返らないような工夫された縫い付け方がされています。
肩のところだけは仕様が違っていて、ここは一番力のかかる箇所で弱いと型くずれしたりするので、白いグログランテープで補強してしっかりと巻き縫いされています。3箇所、違うやり方で縫い分けられています。さすがですね。確かめたらユニクロやMujiは3箇所すべて同様のロック処理で済まされていました。

さて、ニットウェアの方です。始めにまずソックスを裏返してみます。


ソックスの編立機というのはすごくて、生地を編みながら同時にはぎ合わせもして、成形してしまうのです。
これがさらに進化したのが手袋の自動編み機です。現在ニットウェアの自動編み機では世界で高いシェアを持っている和歌山県の島精機という会社は、その前身が手袋製造のファクトリーでした。
 ニットウェアでいちばん重要なのがパーツごとのはぎ合わせです。縫う(sew)のではなく、リンキングといいます。LINK、リンクを張る、の、リンクです。はぎ合わせ、とか、つなぎ合わせ、と、言って、縫い合わせるとは言いません。そもそもニットウェアは縫い合わせsewができないのです。
リンキングは、ソックスや手袋みたいに自動でリンキングまで済ませる製品もあれば、リンキングだけはあとから別作業でつなげるという製品もあります。機械によっていろいろです。
 製品を見てみましょう。同じくスメドレーですけど、わかりやすいように明るい色に変えます。胃カメラ画像じゃないですよ。


袖付のところです。裏側も撮りました。
リンキングは2つの生地の向きが揃ってないとつなぎ合わせられないので、
そのために生地の向きを寸前で軌道修正します。軌道修正は網目の目数を「減らし」ながら進めます。
その軌道修正の跡が合わせの両サイドにハンドステッチのような点線になって現れているのがわかりますか。
これを、減らし目模様、略してヘラシ、と呼んでいます。ニットウェアの証のようなものです。
無地のニットウェアに現れるヘラシは一種の柄のような趣があり、大きな魅力となります。


これはウールのベストですが、Vネックのところ、見てください。ここまで見事にヘラシのきれいなVネックはなかなかないです。スメドレーも最近は機械をすべて一新したらしいので、もうこんなVネックのヘラシにもお目にかかれないかもしれません。あ、脇のところにもヘラシが見えますよね。

さて、冒頭の2つのポロシャツ、どちらがいいとか悪いとかということではありません。
スポーツウェアとしてはカットソーの方が遥かに機能的でしょう。
でももしリゾートやビジネスとして着るとか、また例えば軽いジャケットのインで着るとかという場合には、ニットウェアのほうがふさわしいんじゃないかと思います。
カットソーにはスニーカー、ニットウェアには革靴、という私の基準ですが、ちょっと古臭いかも。
そもそものルーツである、Tシャツとセーターとの違い、というところが判断の分かれ目かな、と思います。


—————————–

今回から、洋服屋の立場から、最低限これだけは知っておいて欲しい、という事項を、順不同に書き綴っていこうと思い立ちまして、タイトルを「糸偏雑筆」(いとへん(の)ざっぴつ)といたしました。
今4歳と1歳の孫が将来読んでもわかるように、書き残すつもりです。
カテゴリーは「学ぼう」としました。
糸偏(いとへん)というのは、繊維に関わる業界を広く言い表した俗語です。どれだけ続けられるかわかりませんが、月に一回、5年ぐらいは続けたいと思ってます。ご拝読いただければ嬉しいです。

倶樂部余話【441】2032年へ向けて (2025年7月1日)


 私は今年68歳になりますが、50代の頃から自分は短命でその寿命は70だと決めていました。
さすがにもう少し生きられそうかな、と感じていた矢先、倶樂部余話【405】で触れた私そっくりの叔父が昨年78歳で昇天したことから、いよいよ私も78までか、と思い始めて、じゃ引退して余生を楽しむという期間も少しだけ欲しいし、ということで、75歳でリタイア、という目標を定めました。あと7年です。まだまだ7年もあるじゃないかと思われるかもしれませんが、前の店舗から今の場所に移動してもう7年経つのですから、7年なんてあっという間です。ここで折り返しの7年、2032年に向けてじわじわと店の終活に入ることにします。
 そう決めるとやりたいことがむくむくと湧いてきました。不思議なもんですね。
 まず、クロージングアイテムの再強化。カッコよく言うとセヴィルロウ倶樂部の復権、
わかりやすく言うと、最後のスーツは当店で、という7年掛けのロングキャンペーンを張ります。幸い、当店には国内業界一人勝ち状態のAという素晴らしいファクトリーが強い味方にいます。ここが近頃最強のスタンダードモデルを発表しましたのでこれをアピールします。
 次。7年の間品揃えから欠落したままでずっと気がかりだったのがネクタイです。再開するならこの男と組みたい、というKという人物、当店がかつて何百本も売ってきたあのDのタイに国内で最も近いモノづくりをしている男と取引を再開します。たださすがに常時展開は難しいので、10月初めにまず短期のPopUpイベントとしてお披露目のスタートをします。ネクタイが欲しい人はそこまで我慢しててください。そして10月に必ず来て(見て)ください。品物には自信があります。
 それから。正しい洋服の知識を得る場所がなくなってきた、と感じてます。雑誌がその役目を果たせなくなっていて、ネットで断片的な知識を聞きかじることしかできません。
なのでもう一度、最低のことだけは店が残しておかねばなりません。今までにも倶樂部余話の中で折りに触れいろいろ書いてきましたが、改めてまとめていこうかな、と思います。ついてはメルマガを月二回にして、倶樂部余話を朝刊コラムとすれば、夕刊コラムのような糸偏雑筆(いとへんざっぴつ)(仮題)の連載を始めてみます。7年も書くだけの服屋の知識を自分が持ち合わせているか不安ですが、将来孫に読ませてもわかってもらえるような糸偏業界40余年の戯言を書いてみようと思っています。
 そして。7年後に私はリタイアしますが、後継者は考えていないので店も閉めることになります。が、この店を引き継ぎたいという人物が出てこないとも限りません。経営状態は借金のことを除けばなんとかギリギリの黒字ですし、店の運営を別会社に移すとか、誂えると揃えるを分離するとか方法は色々あります。ダブルワークでも可能かもしれません。興味のある方は一度ご相談ください。秘密は厳守します。
 今回は、今こんなことを考えています、というお話をいたしました。一つの目標が生まれて、なんだか清々しい気分です。今年の夏も暑いみたいです、しっかり乗り切りましょう。(弥)