糸偏雑筆【2】公式。革物は黒と茶を混ぜない・色のはしごを架ける (2025.8.15,)


ベルトと靴の色、合ってますか。黒なら黒に、茶なら茶に、合わせましょうね。

そんなこと、当たり前だろ、って思う方は多いでしょう。
でも、この単純なルール、実は私は大学2年のときに初めて知りました。えっそうなの、って目からウロコでした。
そして、街を歩くと未だにコレができていない男性があまりにも多すぎるので、まずはここから話さなきゃ、と思うのです。
じゃ、カバンの色は合ってますか。手帳は? 名刺入れは? 時計のベルトは? さあどうですか。
スーツの歴史は簡略化の歴史でもあるので、実際にはルールはだんだん緩くなってきていて、
現代では、黒っぽく見える色、つまり焦げ茶や赤濃茶は黒と混ぜてもいいことになっています。
画像で並べた革見本でいうと、左の3つは許容範囲、だけど右の2つ(中茶、淡茶)まで明るいのはNGです。
それから、黒でも茶でもない色、例えば

こういう、濃紺、濃緑、濃炭、なんかは、逃げ道としてうまく使えば役立ちます。
私が近頃グリーンやネイビーのカバンを使うのは、実はこの革物の色統一からの逃げ道なんです。
また、カバンでいうと、近頃は革製でない合繊織布の製品も増えていて、これらのほとんどが黒ですよね。色の統一、は、ますます難しくなります。
まだ話には先があって、金属の色。ゴールドかシルバーか、これもできれば意識したいです。ベルトのバックル、時計、筆記具、カフリンクス、指輪、ネックレス、できれば統一したいです。私の結婚指輪は金色と銀色のコンビでして、時計もコンビが多い。おかげで金色にも銀色にも対応可能で大変重宝してます。

大事なことは、統一されていると気が付かない、気にならないのに、なにかが違っていると気がついちゃう、気になっちゃう、というのが、メンズファッションの世界の不思議なところ、なんですね。評価判断がどうしても減点主義に傾いてしまうのは仕方ないことなんです。

なので、これは、ビギナーへの究極のアドバイス。
革物は黒にしておけ。茶には迂闊に手を出すな。全部やり直しになる覚悟があるか。

さて、お次は、「色のはしご」を架ける。
この生地を見本にしましょう。淡茶のベースに中茶、スカイブルー、紺、赤、のライン、で、5色使いのガンクラブチェックです。

このジャケットに、さてトラウザーズ(スラックス)は何色を履きますか。
この5つの色から一つの色を選んでジャケットとトラウザーズに色のはしごを掛けます。
赤やスカイブルーのボトムを履く男性はまずいないでしょうから、
茶系を選ぶのが一般的でしょう。薄茶でも濃茶でもいいですが、でもそうすると靴も茶色にしたくなります。もし黒い靴を履きたいなら、紺のボトムを選んでみましょう。(もちろんデニムやチノパンという選択肢もありますが、話が複雑になるのでここではいったん除外しますよ)
シャツとネクタイはどうしましょう。赤系とブルー系をうまく使って色のはしごを掛けましょう。
ブルー系のシャツに赤系ピンク使いの小紋やプリントのタイ、というのはどうでしょう。
逆にピンクのシャツにブルー使いのタイ、もいいですね。
暖色系のジャケットに寒色系のシャツあるいはタイ、という組み合わせは、暖色系だけだともったりとしがちになるコーディネートを引き締めてくれます。
ポケットチーフは差し色のスカイブルーにしますか。そりゃちょっと目立ち過ぎかな、って思ったら、おとなしくベージュ系にとどめておいたほうがより好感度が増すかもしれません。職業にもよるでしょうね。
(チェックやストライプ、無地との組み合わせのコツについてはまた後日改めてやりますのでここでは省きます)

色のはしご、という意味がわかっていただけたでしょうか。
この公式も、私、大学を卒業してから知りました。だって誰も教えてくれなかったんですよ。

このスーツは今から11年前、2014年に当店が葛利毛織に別注したスーツ生地、
その名も「フィナンシャルストライプ」です。

決め手はサーモンピンクの差し色、英国の経済紙FinancialTimes(FT)の色です。

ロンドンの金融街シティをFTを小脇に挟んでさっそうと闊歩する英国紳士をイメージして、
スーツと新聞紙にサーモンピンクのはしごを掛けたのです。
で、FTを手に持てない日本人ために、新聞の代わりにネクタイも用意したのです。
英国のStephen Waltersに別注した生地を日本で縫製しました。

色のはしごを使った当店でも過去最大級のお遊びでした。

さて以上の話、元ネタは以下のとおりです。

倶樂部余話【23】公式①「革物は、茶色と黒を混ぜない」(1990年9月18日)
倶樂部余話【24】公式②「色のハシゴ」(1990年10月16日)
【倶樂部余話】 No.311 フィナンシャル・ストライプ (2014.8.28)

35年前からおんなじ話をしてるんです。キホンのキ、でありますね。

倶樂部余話【442】トランプ関税 (2025年8月1日)


 当店は7月決算ですので、今日8月1日は会社の元日のようなものですが、世界中の多くの人にとってはトランプ関税が一体どうなるのか、米国の動きを固唾をのんで見守っているという一日になっているんじゃないでしょうか。米国と取引のない私なんかは気楽なもので、米国内の港や空港内の貨物の税関はパニックになってないのか、通関が渋滞して長い行列ができるんじゃないか、なんてつまらぬ心配をしていますが、輸出業者にしてみれば、わがまま爺さんのご機嫌伺いに一喜一憂せざるを得ないわけで、まあ気の毒だなぁ、とは思います。

 何十年か前に、初めて直輸入をしようとしたときに、先輩の同業者から「関税はしっかり知っておいたほうがいいよ」とアドバイスされ、関税定率法とか通関士の入門書なんかを読んでわりと勉強したものですが、その厳格に決めらるはずの関税というものが、大統領の気まぐれでいとも簡単に100%とか200%みたいな常軌を逸した税率まで飛び出してころころと変わってしまっていいものなのか、私にはわけがわかりません。

 とは言っても、実のところ輸出業者は言う程そんなに困ってないんじゃないのかなぁ、とも思うのです。なにせこの10年でドルは5割以上高くなってる(最低値101円から最高値161円)ので、同じ売上を維持できればそれで5割の増収ですから、ここで15%ぐらい関税が高くなってもへっちゃらなんじゃないでしょうか。それに関税を支払うのは米国の方なので、輸出業者の財布は傷まないんです。

 対して財布が傷むのは私ども輸入業者の方です。当社の輸入相手は欧州なので、ユーロを例にしますと、この10年で為替は5割以上(最低値113円から最高値173円)上がりしかも欧州の物価自体が26%上がってますので、ざくっというと、10年前には1万円で買えたものが今は2万円出さないと買えないんです。支払う関税はEPA(貿易協定)のおかげでかなり安くなっていて助かってはいますが、それでもこの10年デフレ下の日本で仕入れ値が倍になっても売値を倍にはできないわけで、弱体化した国力がその原因であるにも関わらず、この減益を補填してくれるものはなにもないのですから、愚痴のひとつも言いたくなるってもんです。

 まあ、仕方ないか。本来なら年度初めの日には一年の抱負を語るものなんでしょうが、なんだか愚痴っぽくなりました。今日の国際ニュースがどうなることかわかりませんが、なんとかやっていきましょう。ということで、野澤屋103年目ジャック野澤屋53年目の元日の余話でありました。(弥)